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カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級の地震が「環太平洋火山帯」で起きる理由

Kamchatka earthquake is among top 10 strongest ever recorded. Here’s what they have in common

2025年7月31日(木)19時41分
ディー・ニニス(モナシュ大学・地震学者)/ジョン・タウネンド(ビクトリア大学ウェリントン校・地球物理学教授)
カムチャツカ半島沿岸の町を呑み込む津波(7月30日)

カムチャツカ半島沿岸の町を呑み込む津波(7月30日) Photographer/IPA via Reuters Connect

<史上10位までの巨大地震はすべて太平洋火山帯で起きている>

7月30日の午前11時30分頃(現地時間)、ロシア極東のカムチャツカ半島沖でマグニチュード(M)8.8の地震が発生した。

震源の深さは約20キロと浅く、観測史上10位以内に入る大地震で、2011年の東日本大震災以来、世界最大の地震となった。震源からわずか119キロのところに位置するカムチャツカ地方の中心都市ペトロパブロフスク・カムチャツキーでは、建物が損壊し負傷者が出ている。


ロシア、日本、ハワイで相次ぎ津波警報と避難指示が出され、フィリピンやインドネシア、さらに遠く離れたニュージーランドやペルーでも津波注意報が出た。

太平洋地域は地震や火山活動が活発な「環太平洋火山帯(リング・オブ・ファイア)」と呼ばれる地域で、強い地震やそれに伴う津波が発生しやすい。観測史上10位までの大地震はいずれもこの環太平洋火山帯で起きている。

この地域が地震に見舞われやすい構造上の理由は以下の通りだ。


沖合にプレート境界

カムチャツカ半島のすぐ沖合には千島・カムチャツカ海溝があり、ここは太平洋プレートがオホーツクプレートの下に沈み込む「プレート境界」にあたる。

地球の表面を覆うプレートは互いに絶えず押し合っているが、境界面でプレート同士が強く押し合ったまま動かなくなることが多くある。この固着部分にひずみがたまり、その力が境界面の強度を上回ると、突如として亀裂が入ってひずみが解放され、地震が起こる。

プレートの境界面はとても広く、長さも深さも数百キロに及ぶことがある。そのため亀裂が入ってずれが生じると広い範囲にその影響が及び、時に地球上最大規模で大きな被害をもたらす地震につながる。

二つのプレートがぶつかり合って一方がもう一方の下に沈み込んでいく「沈み込み帯」で発生する地震の頻度や規模には、互いのプレートが動く速度も影響する。

カムチャツカの場合、太平洋プレートは年間およそ75ミリの速さでオホーツクプレートの下に沈み込んでいる。これはプレート運動としては比較的速い速度であり、そのためこの地域ではそのほかの一部の沈み込み帯よりも大きな地震がより頻繁に発生する。

1952年には、M8.8を記録した今回の地震の震源からわずか約30キロ離れた地点(同一の沈み込み帯に位置する地域)でM9.0の地震が発生している。

沈み込み帯で起きたそのほかのプレート境界地震としては、ほかに2011年に日本で発生したM9.1の東北沖地震、2004年にインドネシアで発生したM9.3のスマトラ島沖地震が挙げられる。いずれも震源は比較的浅く、プレート境界の亀裂が地表近くにまで達した。

これらの地震では、プレート境界のずれによって片側の海底が押し上げられ、その上の海水が押しのけられたことで壊滅的な津波が発生。海底の亀裂は約1400キロにも及んだ。

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余震は数カ月続くことも

米国地質調査所によると、カムチャツカ地震発生から約6時間の時点で、すでにM5.0以上の余震が35回観測されている。

余震は本震後に地殻内のストレスが再配分されることで発生し、本震より1段階小さいマグニチュードの地震が起きることが多い。今回のケースでは、M7.5を超える余震も起こりうる。

これほどの規模の地震では、余震は数週間から数カ月にわたり続くことがあり、規模と頻度は徐々に低下する傾向にある。

今回の地震は津波も引き起こし、カムチャツカ半島、千島列島、北海道の沿岸地域にすでに影響が及んでいる。津波は数時間かけて太平洋を横断し、発生から6時間後にはハワイに到達、その後チリやペルーまで到達する見込みだ。

津波の影響については、科学者によるモデル解析が継続されており、各国の防災当局が地域ごとの最新情報を発信している。

周辺で地震活動が活発化

幸い、今回のような巨大地震は頻繁には起きないが、一度発生すれば局地的にも世界的にも甚大な影響を及ぼす。

今回のカムチャツカ地震には、研究対象として注目すべき特徴が複数ある。とくに、震源域周辺ではここ数カ月地震活動が活発化しており、7月20日にはM7.4の地震も発生していた。これらの活動が今回の発生場所やタイミングにどう影響したのかは、今後の重要な研究テーマとなる。

ニュージーランドもカムチャツカや日本と同様に沈み込み帯の上に位置しており、とくに北島の東沖に広がるヒクランギ沈み込み帯では、地質学的記録から見てM9規模の地震が発生する可能性が指摘されている。歴史上ではまだ起きていないが、発生すれば津波も引き起こされると予想される。

沈み込み帯のリスクは常に存在する。今回のカムチャツカ地震は、地震多発地域に暮らす人々にとって、常に警戒を怠らず、防災当局の警告に耳を傾けることの重要性を再認識させる出来事となった。

The Conversation

The Conversation

Dee Ninis, Earthquake Scientist, Monash University and John Townend, Professor of Geophysics, Te Herenga Waka -- Victoria University of Wellington

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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