焦点:「ドルサイクル」転換の年に、トランプ氏復帰で新興国通貨が活況
写真は米ドル紙幣。3月19日撮影。REUTERS/Dado Ruvic
Nell Mackenzie Dhara Ranasinghe Alun John
[ロンドン 15日 ロイター] - トランプ米大統領が1月に復帰して以来、マイナーな新興国通貨であるハンガリー・フォリントの取引量は2倍以上に増加している。トランプ氏が「解放の日」と位置付けて関税を発表した4月2日以降、トレーダーの関心は高まる一方だ。
今年のフォリントは対ドルで約20%上昇し、この約四半世紀で最大の上昇率となっており、2025年の新興国通貨でトップクラスの好パフォーマンを見せている。
MSCIの新興国市場通貨指数は7月に過去最高値を記録。年初来の上昇率は6%を超えており、17年以来の最良の年になろうとしている。
ロイターが取材したトレーダー、ファンドマネジャー、アナリストの多くは、来年もこの傾向が続くと予想している。
投資家は不安定で下落するドルへのエクスポージャーを見直す一方、南アフリカやハンガリーをはじめ発展途上国の価値向上を見込み、資産を米国から分散している。
JPモルガンのEM債券戦略リサーチ担当責任者ジョニー・ゴールデン氏は「われわれは14年間続いた新興国通貨の弱気サイクルが転換したと考えている。米国資産を大量に保有して新興国資産を回避した『ドルサイクル』の転換でもある」と述べた。
<IMFの警告>
マニュライフの新興国債券担当ポートフォリオマネジャー、エリナ・テオドラコプロウ氏にとって驚きだったのは、先進国での出来事が価格変動の引き金となったことだ。米国主導による世界貿易の分断、地政学的な混乱、中央銀行の政策の乖離は今後も値動きの主因になると見込まれる。
一方、国際通貨基金(IMF)は最新の金融安定報告書で、為替市場の危険性を警告。世界の為替取引高の半分近くが大手銀行を中心とする小さなグループが仲介しているため、ストレス期に銀行が取引を縮小した場合、市場はリスクにさらされることになると指摘した。
国際決済銀行(BIS)によると、4月時点の通貨取引額は3年まえから30%程度増加した。
25年はジェットコースターのような年だった。先進国市場の通貨ボラティリティーは4月に2年ぶりの高水準まで急上昇し、その後軟化した。市場が安定したことで、キャリートレードにとってより魅力的な環境となった。
データ分析会社バリ・アナリティクスがロイターのためにまとめたデータによると、新興国通貨取引は大もうけだった。
世界の銀行上位25行の1─9月の新興国通貨取引による収益は約400億ドルで、今のところ最良の年となっている。これは銀行がドル、ポンド、ユーロなどG10通貨から得た190億ドルの2倍以上だ。
ロイターが取材した14人の為替トレーダー、ヘッジファンドマネジャー、アナリストの半数強は、新興国通貨への関心の高まりが26年も続くとみている。
ドル高がもはや確実でない時代となり、ヘッジとボラティリティーの増加も持続する可能性が高いという。
<米利下げが新たな光>
ドル安の潮流で全ての通貨が恩恵を受けたわけではない。インドルピーは貿易・投資フローの悪化によって史上最安値をつけ、インドネシアルピアは中央銀行の独立性と政情不安に対する懸念によって打撃を受けた。
しかし、ドルは回復しているとはいえ、上半期には約11%下落し1970年代前半以来の急落に見舞われた。アナリストは米利下げがさらなる軟化をもたらすと予想している。
多くの新興国通貨にとってこの背景は重要であり、資金流入を促進している。メキシコペソとブラジルレアルも今年最も好調な新興国通貨の一角を占めている。
ブラジルの政策金利は15%と高く、通貨・債券市場での取引も容易だ。
約14億ドルを運用するアミア・キャピタルのポートフォリオマネジャー、ニコラス・スクローディス氏は「新興国に幅広く資金が流入しており、この傾向がすぐに逆転することはないだろう」と語った。関係筋によると、同ヘッジファンドは年初来で16%のリターンを上げている。





