最新記事
日本社会

生活に困窮する母子世帯でも、生活保護を受けられるのは3割以下

2025年7月2日(水)11時30分
舞田敏彦(教育社会学者)
母と娘

困窮世帯の生活保護受給率は都道府県によって大きな差が出ている photoAC

<全国の年収200万円未満の母子世帯の生活保護受給率は28%しかなく、受給率が10%に届かない県もある>

1987年1月、北海道札幌市で母子世帯の母親が餓死する事件が起きた。原因は生活困窮。過去に生活保護を受けていたものの、病院の正規職に就いたことを理由に打ち切り。その後、再び生活に困窮し、周囲から生活保護の再申請を勧められるも、それをしなかったという。生活保護行政への不信もあったのだろう。

よく言われるように、母子世帯の生活は苦しい。年収の中央値は226万円(総務省『就業構造基本調査』2022年)。1人ならまだしも、育ち盛りの子が数人いるとなると生活は非常に苦しくなる。1日2食、いや1食。酷暑でもエアコンをつけられないなど、生存を脅かされるような状況になっても不思議ではない。


そうなった時に使うべきは生活保護だが、2022年7月時点において、生活保護を受けている母子世帯は6万3369世帯(厚労省『被保護者調査』2022年)。同年の母子世帯全体(53万4200世帯)の11.9%でしかない。

母子世帯のうち年収200万円未満の世帯の割合は42.3%、母子世帯の生活保護受給率は11.9%。この2つの数字の乖離が恐ろしい。要保護状態にもかかわらず、それを受けることはできず、困窮生活を耐え忍んでいる母子世帯が多く存在することを示唆する。生活保護を受けている母子世帯は、年収200万円未満とみなしていいだろう。この仮定をもとに、母子世帯の組成図を描くと<図1>のようになる。

newsweekjp20250702015658.png

横軸では、年収200万円を境にして2つのグループに分けている。年収が200万円に満たない困窮母子世帯は22万5800世帯。このうち生活保護を受けているのは6万3369世帯。よって、困窮母子世帯の生活保護受給率は28.1%となる。

この値をどう見るかだが、いかにも低い印象を受ける。年収200万円未満(手取りだともっと少ない)で、母子が生計を立てるのは非常に難しい。貯蓄があるとか、親族からの援助を期待できるとかの理由で、保護を申請しない家庭もあるだろうが、保護を受けたくても受けられず、困窮生活を強いられているとしたら問題だ。生活保護の申請窓口で、違法な水際作戦がはびこっているのはよく知られている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、マスク氏盟友アイザックマン氏をNASA

ビジネス

10月マネタリーベース7.8%減、14カ月連続のマ

ワールド

政府閉鎖さらに1週間続けば空域閉鎖も、米運輸長官が

ワールド

UPS機が離陸後墜落、米ケンタッキー州 負傷者の情
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中