中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の火種」が...トランプが見落とす「危機の兆候」
THE LOOMING ALEUTIANS CRISIS
グリーンランドに不要な外交的関心を向けることで、アメリカ政府は虚を突かれるリスクを高めている。北極圏での備えを固めることこそ、日本海、台湾海峡、南シナ海を含む第一列島線上の紛争抑止能力の強化につながるはずだ。
現在の戦略的環境の根底には米中の根深い不信感がある。既に緊張が高まっている状況下で米領内への侵入が勃発すれば、アメリカは軍事的に対応せざるを得ない。中国の戦闘機が北極圏のアメリカ領空に侵入したり、中国の艦船が米領海に迷い込んだりしたら、アメリカは攻撃を選択するかもしれない。
偶発的、あるいは意図せぬ形で事態がエスカレートするリスクもある。22年9月には中国の南昌級駆逐艦が、アリューシャン列島のキスカ島沖、約140キロまで接近した。この軍艦は最大112発の巡航ミサイルを搭載しており、誤って発射されれば核戦争の危機となる可能性もある。
不安定さを増している北極圏においては、多大な代償を伴う事故がいつ起きてもおかしくない。
どういう状況になったら、アメリカは北極圏で軍事行動に踏み切るのか。その基準は依然として不明瞭だ。アメリカは中国の脅威の高まりに呼応して、北極圏でのレッドラインを明確に提示すべきだ。ベーリング海峡や北太平洋での軍事活動に関して明確なレッドラインを示さなければ、意図せずして、中国が米領付近でさらなる地政学的リスクを冒すよう仕向けてしまうことになる。