最新記事
オピニオン

動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由

China's Ready for a Trade War. The U.S. Isn't. Here's Why | Opinion

2025年4月13日(日)13時50分
イムラン・ハリド(戦略地政学アナリスト)

バイデン政権も根本にある発想は同じだった

金融分野でも、中国は静かに対抗手段を構築している。通貨スワップ協定のネットワークは、アルゼンチンからアラブ首長国連邦(UAE)まで40カ国以上に広がった。BRICSの拡大により、中国は「脱ドル化」を推進する足場も手にしている。

これらの動きはまだ初期段階にあるが、そのメッセージは明白だ。アメリカの金融覇権はもはや不変ではなく、中国は「新たな時代」への準備ができている――。

もちろん、中国にも問題は山積している。不動産市場の減速、若年層の高失業率、人口減少の足音......。だが注目すべきは、そうした外的ショックを吸収する中国の「耐性」の高さだ。一方で、アメリカの農家、製造業、中小企業は、長引く対立のコストに苦しんでいる。

問題の核心は、戦略の迷走にある。関税は政治的には効果的なパフォーマンスだが、長期的な経済戦略の代替にはなり得ない。関税は同盟国を遠ざけ、市場を歪め、サプライチェーンや物価にまで影響を及ぼす。しかも、次世代産業の主導権を取り戻すための道筋は、そこからは見えてこない。

激しい脅し文句こそなかったが、バイデン政権も第1次トランプ政権の関税をおおむね維持した。アメリカの根本にある発想は変わっていない。

アメリカは今なお、経済的圧力だけで中国の行動を変えられると信じているのだ。しかし、その前提こそがすでに破綻しており、中国はそれを見抜いている。

いま我々が目にしているのは、中国の「後退」ではなく「再編」だ。アメリカが旧来の経済的な武器に手を伸ばす一方で、中国は新たな道具を整えつつある──よりネットワーク化され、分散され、おそらくは先々でも通用する道具だ。

問われるべきは、関税によって貿易戦争に勝てるかどうかではない。経済戦略の「新しい形」に対応する洞察力を、アメリカが持てるかどうかである。

[筆者]
イムラン・ハリド(Imran Khalid)
戦略地政学アナリスト。さまざまな国際ニュースメディアで国際情勢に関するコラムを執筆している。

(本稿で示された見解は筆者個人によるものです)

ニューズウィーク日本版 コメ高騰の真犯人
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月24日号(6月17日発売)は「コメ高騰の真犯人」特集。なぜコメの価格は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB金利据え置き、将来の利下げペースの鈍化示唆

ビジネス

日鉄によるUSスチールの買収完了、米政府が黄金株保

ワールド

イラン、トランプ氏の降伏要求に反発 中東紛争の出口

ワールド

日産2車種「追加調査の必要性なし」 米NHTSA、
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 8
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中