最新記事
ドナルド・トランプ

【超解説対談】イーロン・マスクがトランプ政権で課せられた本当のミッションとは? 日本政府のトランプとのパイプ役は?(小谷哲男教授)

Decoding Trump 2.0

2025年2月19日(水)19時22分

――まもなく4年目に入るウクライナ戦争について。トランプ氏とバンス氏はDMZ(非武装地帯)を作って休戦に持ち込む、朝鮮戦争なやり方を主張してきた。本当に可能か?

プーチン大統領の出方次第です。トランプ氏は就任前からウクライナ・ロシア担当の特使にキース・ケロッグ氏を指名しています。ケロッグ氏は(トランプ氏の)就任前から動いて、プーチン氏とトランプ氏の会談などを模索しているようです。当初はロシアも3年近く戦って、かなり経済も悪く停戦を持ちかければ乗ってくるだろう。特にウクライナにNATO加盟を棚上げさせれば乗ってくるだろうと思っていたんですが、意外とプーチン大統領、ロシア側が乗ってきていないようです。

だから当初は24時間で終わらせると言っていましたが、最近は100日あるいは6カ月と後退しています。当初描いていた停戦が実現し、緩衝地帯を作り、そこにアメリカではなくヨーロッパの軍隊が入り、それでアメリカが引いていくというアイデアは、今のところまだ実現が難しい。

――トランプ大統領の指向する外交は、その昔、ニクソン大統領が中国と組んでロシアを封じ込めた三角外交の逆パターン、つまりロシアと組んで中国を封じ込める新・三角外交に見える。

それを「逆ニクソン」と言うこともあります。トランプ氏の側近たちの話を聞いていると、ウクライナで停戦が実現できれば、石油を買ったり、民生品を渡す形で中国がロシアを支援している関係を止めることができる。そして、停戦実現後にロシアに対して関係改善を持ちかけ、経済制裁を緩和をしていけば、ロシアを中国から引き剥がせる。

そのためであれば、ロシアのG8復帰も考えるという発言が出ている。まさに「逆ニクソン」をやろうとしているんだと思います。しかし、ニクソンの時とは国際情勢も全然違いますし、そう簡単にうまくいかない。

――一番違うのは中国が経済力をつけていること。どの国も中国なしではビジネスが回らない状況になっている。

かつてはソ連と中国の間に国境紛争もあって、実際に戦争に発展していたが、今両者にそういう紛争の種はありません。そういう意味では、「逆ニクソン」はそう簡単にはうまくいかない。

――一方で、それぐらい中国がアメリカにとっては脅威であるということだ。

中国こそが最大の敵、悪なので大国間競争を仕掛けて、軍事面でも経済面でも技術面でも、アメリカが優勢な立場・環境をつくることを目指していくと思います。

――AIのディープシークが話題になったが、バイデン政権の半導体囲い込みが逆に働き、中国のイノベーションを促す皮肉な側面もあった。

技術面での競争は今後、さらに加速化していくと思います。

――北朝鮮、イランとの関係はどう展開していく?

北朝鮮もイランも今、ウクライナ戦争でロシアを支援しています。ウクライナの停戦が実現できればロシアとイランを、ロシアと北朝鮮を切り離すことができると考えています。イランに対しては封じ込めを継続し、経済制裁の復活も含めて孤立化させ、核開発を放棄させる。
一方、北朝鮮に対しては、1期目も非核化交渉を3回やりましたが、今回も交渉を持ちかけると思います。ただ、非核化交渉ではおそらくなくなり、北朝鮮を核保有国として認めた上で軍備管理交渉を持ちかけ、そしてアメリカと北朝鮮の関係を改善していく。そうすれば、北朝鮮を中国から引き離すことができる。そういう絵を描いています。

――それもあくまで中国包囲網の一環だと。

そうです。今まさに中国こそが最大の敵なので、あらゆる手段でこれを孤立化させることを目指しています。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、イランのフーシ派支援に警告 国防長官「結果引き

ビジネス

消費者態度指数、5カ月連続マイナス 基調判断「弱含

ワールド

中国、欧州議会議員への制裁解除を決定

ワールド

エルサルバドルへの誤送還問題、トランプ氏「協議して
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中