最新記事
オリンピック

「テロリズム劇場」フランスに与える心理的打撃と五輪が標的にされる理由

The Threat Against the Paris Games

2024年7月30日(火)15時00分
トーレ・ハミング(英過激化研究国際センター研究員)、コリン・クラーク(米スーファン・センター上級研究員)

複雑すぎる仏テロ事情

ただし、フランスが直面するテロの脅威には複雑な部分がある。アルカイダに共感する過激派や、組織とのつながりはなくてもパレスチナ自治区ガザでの戦争などを動機とする個人も、極めて現実的な脅威だ。

さらには極左や極右の暴力的な過激派、イランやロシアなどの支援を受けた活動家が、影響工作やフランスの重要インフラへのサイバー攻撃などさまざまな攻撃を仕掛ける可能性がある。


イスラム過激派は近年、西側諸国に対する攻撃に刃物や小火器などの単純な手口をよく使っている。こうした戦術は大勢の犠牲者を出すことはあまりないが、計画の成功率は高くなる。

最悪のシナリオは、訓練を受けた工作員が同時多発攻撃をいくつも実行するような、より複雑な戦術が取られることだ。ネット上には五輪期間中に商用ドローンを使って攻撃を行う方法を書いたマニュアルが出回っており、新しいテクノロジーが使われるかもしれない。

最も恐ろしくて効果的な攻撃は、大勢の人が集まりそうな大会関連のイベントや施設を標的にすることだろう。だが、このような攻撃は実行が難しい。そのため、より狙いやすく目立たない標的が選ばれることを想定すべきだ。

フランスがこの大会を無事に乗り切るには、対テロの精鋭部隊と西側諸国からの情報支援、そしていくらかの運が必要だ。攻撃を未然に防ぐには友好国、特に情報傍受などに高い能力を持つアメリカなどの支援が不可欠だろう。

大会開幕直前にテロリストが準備を加速させている兆候が見えたことは、攻撃の決意を固めた敵が存在するということと、彼らがさまざまな攻撃の選択肢を活用できる可能性を示している。

例えばISやIS-Kのような組織が暗号化された回路を通じて命令を出し、彼らを支持する一派に計画を実行させられるかもしれない。

大規模な群衆や集会の警備は特に難しい。車を使った攻撃など、大勢の犠牲者を出しかねない戦術に対する備えを固めることが最も重要だ。

フランスがこのオリンピックを安全に開催できれば、実に大きな功績になる。そうなれば、近い将来に大規模なスポーツ大会を開催する国々は、今回のフランスの対策から多くを学べるはずだ。

◇ ◇ ◇


開会式直前の7月26日未明、高速鉄道TGVの路線3カ所で、電気・信号設備が放火される破壊行為があった。列車の運休が相次ぎ、鉄道網は大混乱に陥った。

被害に遭った3カ所は、北、東、南西からパリを囲む位置にあり、オリンピックの警備当局には緊張が走った。ガブリエル・アタル首相はX(旧ツイッター)への投稿で「妨害行為は計画的かつ組織的」との見方を示した。

Foreign Policy logo From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税

ワールド

ルビオ氏「日米関係は非常に強固」、石破首相発言への

ワールド

エア・インディア墜落、燃料制御スイッチが「オフ」に

ワールド

アングル:シリア医療体制、制裁解除後も荒廃 150
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中