欧米の保護主義とEVシフト...中国排除のジレンマ
VACILLATING WEST

脱炭素化と保護主義の間で
今年に入って、EVの普及にグローバルな規模でブレーキがかかるようになった。これまでのEVの急速な普及は、パンデミック以降の景気回復を促すべく各国で採用された購入補助金に大いに依存していた。この補助金が各国で見直され始め、車両単価が比較的高いEVをユーザーが敬遠するようになったのである。加えて、インフレ対策として各国の中央銀行が利上げを進め、カーローンの負担が重くなったことも、車両単価が高いEVにとっては逆風となっている。充電ポイントの整備が遅れていることも大きい。
今後、さらにEVシフトを進めるに当たっては、充電ポイントの整備に努めるとともに、車両単価を引き下げていく必要がある。本来なら、市場におけるメーカー間の競争を通じて、車両単価が自然と低下していくことが望ましい。中国製の廉価なEVを各国の市場に受け入れ、自国のメーカーと競争させることには利がある。
しかしEUもアメリカも、自国メーカーを優遇する観点から、追加関税を課して中国製EVを自国の市場から排除しようとしている。EUは7月から中国製EVへの関税を最高で48%に、アメリカは年内に中国製EVに対する関税を25%から100%に、それぞれ引き上げる。
中国のEVメーカーは、中国政府から多額の補助金を得ており、それで実現した廉価なEVを輸出することは不当廉売であり、公正さに欠ける──。EUやアメリカはこう主張している。さらに経済安全保障の観点からも、両者は中国と距離を置こうとしている。
EVの生産に必要なレアアースなどの重要鉱物はその多くが中国で生産され、こうした点から中国はそもそもEVの生産体制を築く上で優位な立場にある。その中国にEV市場を席巻されてしまった場合、中国との間のデリスキングは進まないというわけだ。
しかし、EV生産に必要な鉱物を産出する国が中国である以上、中国を排除した上でEVシフトを進めることなど不可能である。保護主義と脱炭素化のはざまで、中国に対する距離感をどう取るべきか。欧米のスタンスは今も揺らいでいる。
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