最新記事
チベット

ダライ・ラマが89歳に...チベットに迫る「後継者問題」

2024年7月12日(金)17時14分

後継者問題

多くの歴史学者は、チベットは13─14世紀の元(げん)王朝下でモンゴル帝国の支配下に置かれたと指摘する。元の支配領域は現在の中国の大部分とも重なるため、中国政府はこの時点でチベットの領有権を獲得したと主張しているが、専門家の間では、双方の関係は数世紀にもわたって大きく変化したほか、そのほとんどの期間チベットは自治を行っていたと考えられている。


 

中国は人民解放軍が1950年にチベットを「平和的に解放した」としている。チベットで1959年に起きた反中国蜂起が失敗に終わった後、ダライ・ラマはインドに亡命。同氏と無神論的立場をとる中国は1995年、2人の青年をそれぞれチベット仏教の序列2位の高僧パンチェン・ラマ11世に認定した。ダライ・ラマが指名した当時6歳の少年は直後に中国当局に誘拐され、以降その姿は一度も確認されていない。

多くの仏教徒が中国当局による選択は正統でないと考える一方、ダライ・ラマの後継者についても同様に並列で認定が行われる可能性があるとみている。中国側はダライ・ラマは必ず転生し、中国政府が後継者を認定しなければならないという姿勢を示している。

米共和党のマコール下院外交委員長はダライ・ラマを訪問した際、中国当局が「ダライ・ラマの後継者認定に介入しようとしているが、そうはさせない」と表明した。

インドは2022年に同国軍がチベット高原近郊の係争地で中国軍と衝突して以来、後継者問題に関する立場を明確にしていない。

「米国は、インドに比べれば国境侵犯を懸念する必要はない」と米国家安全保障会議(NSC)南アジア担当の元高官ドナルド・キャンプ氏は言う。インド外交のウォッチャーは、数万人ものチベット人が暮らし、国際社会での発言力も増すインドは、チベット指導者の後継者問題に巻き込まれることになるだろうと分析している。強硬派の評論家らは既にモディ首相に対し、中国に圧力をかける手段の一つとしてダライ・ラマとの会談を要請した。

インド外務省は後継者問題に関するコメントを差し控えた。元駐中国大使のアショク・カンタ氏は、「中国が認定プロセスを管理しようとすることに対し、(インドは)快く思わないだろう」と述べた。

「ダライ・ラマや関係者に協力することが中国にとって最良の選択肢だと、我々はこれまでも中国側に非公式に伝えている」とカンタ氏は言う。

「ダライ・ラマ後継については、何が起こるか分からない」

ダライ・ラマは亡命チベット人から敬意を集め、彼らの不満や正式独立運動への勢いを抑制していた。ただ、その死後もこうしたバランスが保たれるかどうかは、定かではない。

チベット青年会議(TYC)のソナム・ツェリン代表は、同会議は「中道」を尊重しているとしつつ、多くのチベット若年層と同様に完全な独立を望んでいるとの立場を示した。

チベット人は今のところ、死ぬ前に祖国に戻るというダライ・ラマの願いを叶えるべく支援に注力しているとソナム・ツェリン氏は言う。

ただ、もし願いが叶わなかった場合に「彼らが直面し得る感情の高ぶりや困難は、非常に想定しがたいものだ」と述べた。

亡命政府首相は、中国の主張に異議を唱えるという同政府の新たな姿勢が、チベットの歴史的地位を共通認識として持つ独立支持派と中道を求める人々を団結させたとの見方を示した。

いつかチベットに帰還するという強い願いを象徴する最高指導者の長寿を祝い、祈るために、13日の誕生日には世界中から何万人もの仏教徒や支持者が集まる。

ただ、ダライ・ラマと支持者に残された時間は、残り少なくなりつつある。




[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 習近平独裁の未来
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月17号(2月10日発売)は「習近平独裁の未来」特集。軍ナンバー2の粛清劇は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」強化の始まりか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国こそが「真の脅威」、台湾が中国外相のミュンヘン

ワールド

米中「デカップリング論」に警鐘、中国外相がミュンヘ

ビジネス

ウォルマート決算や経済指標に注目、「AIの負の影響

ワールド

ドバイ港湾DPワールドのトップ辞任、「エプスタイン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    【インタビュー】「4回転の神」イリヤ・マリニンが語…
  • 9
    機内の通路を這い回る男性客...閉ざされた空間での「…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 10
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中