最新記事
ロシア

習近平はプーチンの足元を見て、天然ガスを半値で買い叩いている

Xi Squeezes Putin for Deeper Gas Discounts

2024年6月4日(火)18時02分
ブレンダン・コール

ミロフは5月、アメリカのシンクタンク、アトランティック・カウンシル向けにレポートを作成した。西シベリアのガス田と、ヨーロッパ市場の代わりとなるアジア市場を結ぶインフラが存在しないため、ガスプロムのアップストリーム(上流部門)にあたるガス生産拠点が孤立している現状を解説する内容だった。

ミロフのレポートはほかにも、ガスプロムが、パイプラインに代わるエネルギー資源の供給ルートとなる液化天然ガス(LNG)プラントを建設し損なっていることも指摘している。

5月には、石油や発電関連事業も含めたガスプロム・グループ全体で、最終損益が6290億ルーブル(約1兆600億円)の赤字になったと発表された。ミロフによればこの数字は、「中国へのガス輸出が損失を出していることを示すいちばんの証拠」だという。

「(ロシアの)ガスの大半は、地理的・経済的にヨーロッパ圏に属する地域で生産されている。ゆえに、ガスプロムにとって合理的な唯一のビジネスモデルは、これまで通り、ヨーロッパ市場に独占的にガスを供給者することだった」とミロフは指摘する。

唯一の市場を敵に回したプーチン

「ロシア産ガスのヨーロッパ向け供給が大幅に復活することは、まずあり得ない」とミロフは指摘し、さらにこう続けた。「政治的な理由から供給が断たれた以上、今後復活する見通しは全くないように見受けられる。また、代替となるモデルも存在しない」

フィナンシャル・タイムズ紙の報道によれば、中国は既に、ロシア産ガスに対しては、他の供給国と比べて低い価格しか支払っていないという。その平均価格は100万BTU(英国熱量単位)あたり4.4ドルで、ヨーロッパ向けの100万BTUあたり10ドルという価格と比べると半額以下だ。

同紙はまた、前述した「シベリアの力2」パイプラインに関する契約は、5月の首脳会談でプーチンが習に対して行なった3つの要求の1つだったと報じている。さらにこの記事では、今回のプーチンによる中国公式訪問に、ガスプロムのアレクセイ・ミレル最高経営責任者(CEO)が同行していなかったことは、これまでの中国政府との交渉において同CEOが不可欠な役割を果たしていたことを考えると特筆すべき点だと指摘している。

中国の輸入ガスに対する需要は、2023年には天然ガス換算で1700億立方メートルだったが、2030年までに2500億立方メートルに達する可能性もあると予測されている。この予測を行なったコロンビア大学世界エネルギー政策センターによると、この量は、既存のパイプライン供給契約とLNGによって大半がまかなえるものだという。
(翻訳:ガリレオ)

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中