最新記事
韓国総選挙

不人気すぎる韓国・尹錫悦大統領の自滅...国民の力が大敗した7つの理由

An Anti-Yoon Vote

2024年4月16日(火)12時50分
ミッチ・シン

newsweekjp_20240415025716.jpg

スーパーを視察した尹はネギの特売価格を見て「妥当」と言い、反発を買った AP/AFLO

■インフレ対策の失敗

国民の力が敗北したもう1つの大きな理由は、尹政権がインフレ率を安定させることができずにいるからだ。韓国統計庁が3月に発表したデータによると、2月の消費者物価指数は生鮮果物が40.6%上昇。リンゴは71.0%、ナシは61.1%の上昇となった。

ソウルの主婦カン・ヒョンソク(47)は次のように語っている。「地元の市場で信じられないような値段の果物を見て、諦めて家に帰ったことが何度あったか分からない。子供たちのために果物を買うことをためらわなければならないなんて、惨めでしかない」

尹の「長ネギ失言」も、庶民の感覚に対する無知をさらけ出し、人々の怒りをあおった。3月にスーパーを訪れた尹は、1束875ウォン(約97円)の長ネギを見て「妥当」な値段だと語った。ただしそれは特売品で、大半の国民はその値段で買える機会はほとんどない。

■研究開発予算の削減

尹政権はインフレ率を安定させると宣言する一方で、24年度の国家研究開発予算を14.7%削減した。これは1991年以来の決定で、IMF危機の最中にも、韓国政府は研究開発予算を削減しなかった。科学技術界からは、資金がなくなれば進行中の研究プロジェクトに影響が出かねないと懸念の声が上がった。

尹は科学者の怒りを鎮めるために、翌年以降の増額を約束した。しかし、政権に批判的な人々に言わせれば、こうした手のひら返しは、そもそも削減したことが不必要であり思慮不足だったという意味でしかない。

高いインフレ率を中心とする経済問題が、尹政権の過去2年間の失敗を罰しようとする穏健派の票を共に民主党に流れ込ませる原動力になったことは明らかだ。

■研修医のスト

韓国を騒がせているもう1つの主要な問題は、今も続行中の医師のストライキだ。発端は、尹政権が今年2月に医学部の定員を2000人増員すると発表したこと。韓国には医学部のある大学が40あり、現在の定員は合計3058人だが、増員後は5058人となる。

増員計画が発表されるや、研修医らが撤回を求めてストを決行。大学病院は手術の延期を余儀なくされるなど、医療現場に混乱が広がった。

政府としては医師を増やして農村部の医師不足を解消したい考えで、計画が実施されれば35年までに医学部の卒業生は1万人増えることになる。

尹政権は譲歩の余地はないと主張、スト参加者の医師免許を剥奪すると脅しをかけた。増員は過去18年間実施されておらず、尹は何としても実施する構えだ。

とはいえ競争激化で収入が減ることを警戒する医師たちは頑強に抵抗していて、計画実施の見通しは立っていない。

世論調査では増員計画は国民の圧倒的支持を得ているため、研修医のストが選挙結果に影響を与えたとは考えにくい。だが与党が大敗を喫した今、共に民主党は政府に代わって争議の仲介役を買って出るとみられる。

その場合、共に民主党は研修医の立場に配慮し、増員数を減らすよう政府に働きかけるだろうが、尹政権が野党の調停案を受け入れることはまずあり得ない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ダライ・ラマ「一介の仏教僧」として使命に注力、90

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強

ワールド

英外相がシリア訪問、人道援助や復興へ9450万ポン

ワールド

ガザで米国人援助スタッフ2人負傷、米政府がハマス非
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中