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問題はプベルル酸が入っていた「量」だ...小林製薬はなぜ異物混入を見抜けなかった? 東大准教授がゼロから徹底解説

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2024年4月10日(水)08時30分
小暮聡子(本誌記者)

作ったものにどのような成分が含まれているかというのは非常に重要なので、一般的には何らかの方法で常にチェックするはずです。ですがチェックはしても、そのやり方が甘いと、異物が入っても見抜けません。一方、異物の量が微量になればなるほど、検出が難しくなるのは間違いありません。

私が品質管理として重要だと思うのは、検査結果がいつも同じ、少なくとも同じ傾向であるということです。ただし、紅麹のサプリはベニコウジカビという生物が生産する化合物の混合物を用いるためにロットによる振れ幅が必ずあります。ですので、許容範囲をあらかじめ定めることになりますが、もし仮に私が有機化学的な視点から目的のサプリメントの品質管理をするならば、含まれる成分をできるだけ万遍なく解析できるような分析条件をいくつか設定し、先ほど説明したHPLCを用いた検査体制を構築するでしょう。問題のない範囲内では、横の時間軸に対してピークがいくつか表れるという、その「絵」がいつも同様になるはずです。

問題の発覚後に今回行われた検査では、その、いつも同じであるはずの「絵」に、プベルル酸とみられるピークが描かれたといった状況が私の想像するところです。小林製薬がどのように品質の管理を行っていたのか、実際のところ公表されていないものの、仮にプベルル酸などの「意図しない成分」が簡単に見抜けるくらい「意図した成分」に対して大量に入っていたなら、それを簡単に見落とすとは思えません。

一方、そのHPLCのピークが凄く小さな山である場合、つまり意図しない成分の量がごく微量であった場合は見逃してしまう可能性もあるかもしれません。だからこそ、先に述べたプベルル酸の(相対)量の情報が気になっています。あるいは、通常の分析ではピークが他のものと重なってしまっている可能性も考えられます。サプリの品質や含有成分の量に関する管理をどのように行っていたのかも知りたいところです。

──これまでに、品質管理でこの「ピーク」を見逃した事例というのはあるのか。

残念ながら、報道等で時々目にします。有名な事例としては、2020年12月に発覚した小林化工(小林製薬とは無関係)という製薬会社の不祥事が挙げられます。小林化工は抗真菌薬という水虫の薬を製造していましたが、製造途中で容器を取り違えて睡眠導入剤を混入させてしまいました。

こうした異物が混入すれば分析過程のところで異常が確認できるはずで、実際にHPLCのピークで通常は無いものが明確に出ていました。作業員はその異常に気がついていたのですが、それを見過ごして品質に合格を与えて市場に出してしまい、結果的に死者を出す事態になりました。

公表されている報告書を見ると、実際のHPLCの意図した成分中に「意図しない睡眠薬」の成分が小さく描かれているのを見ることができます。この程度の違いでも死者がでてしまうことになりかねません。小林化工の場合は、今回の問題に関して一部の報道でも出てきているGMPの認証を受けていましたが、国に届け出られたその製造方法に違反していたと報告されています。

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