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紅麹サプリの「プベルル酸」はどこから来た? 人為的混入、遺伝子変異の可能性は【東大准教授が徹底解説】

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2024年4月10日(水)08時30分
小暮聡子(本誌記者)

──小林製薬は会見で、検出された「想定していない成分」をいくつかの化合物に絞り込んでいると明らかにしたが、その直後に厚生労働省は想定していない成分として「プベルル酸が同定された」と発表した。プベルル酸とはどういう物質なのか。

天然からはさまざまな薬理作用を持った多様な化合物が数多く発見されます。プベルル酸はある種のアオカビから作られる天然化合物です。プベルル酸の発見は1930年代と古いのですが、2011年に日本の北里大学が、マウスを使った実験でマラリア原虫を殺す作用があることを突き止めました。

そういう強い薬理作用を持った物質である一方、プベルル酸がヒトの培養細胞やマウスに対して毒性を示すとの報告もあります。現在ではマラリア薬としての開発は中止されているようで、使えない化合物と認知されているためか、プベルル酸の専門家はいません。

ですが研究者たちの間では、現時点ではプベルル酸が腎障害を引き起こすという研究報告がないため、原因物質として早計に同定することに疑問を持っている人もかなりいると思います。私も(同定する)自信は持っていません。複合的な要因を含め、他の可能性を見落とすことのほうが怖いと思っています。

──プベルル酸とは簡単に作れるものなのか。

実験室で難易度の高い作業を経ないと作れませんので、有機合成の専門家でないと無理だと思います。逆に言うと、それを作れる人は限定されるので、作って外部から紅麹に入れたという可能性は低いと思います。

──プベルル酸が自然に発生することはあるのか。例えば問題のロットにプベルル酸が外部から混入していたとして、プベルル酸が「その辺にある」という状況は考えられるのか。

解明すべき大きな問題の1つだと思います。なぜサプリに混入したのか、可能性はいろいろあるのですが、まず真っ先に考えられてもっともらしいといわれるのが、紅麹を培養する過程でアオカビも一緒に入ってしまったのではないか、という説です。ある特定の種のアオカビとベニコウジカビの混合物が培養されたことによって、プベルル酸が入った紅麹が生成されたという可能性が考えられます。

──例えば、放置しておけばパンにもご飯にもアオカビは生える。どんなアオカビでもプベルル酸を作ることができるのか。

今のところはないといわれています。アオカビは数百種類とあります。それら全てがプベルル酸を作るわけではなく、わずか数種のアオカビからプベルル酸が見つかっている状況です。

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