最新記事
健康

健康寿命を削る「質の悪い睡眠」や「不眠」をもたらす食品とは? 睡眠前の飲食だけではなかった

Food for Sleep

2024年3月15日(金)19時00分
エリカ・ジャンセン(ミシガン大学助教)
良質な睡眠と食事の関係

「何を」「いつ」「どんなふうに」食べるかを意識して良質な睡眠を手に入れたい BIT245/ISTOCK, FRESHSPLASH/ISTOCK

<健康的な食生活が、健全な眠りを支える。「睡眠障害」のリスクを低下させる、質の高い食と眠りの好サイクルのために心がけるべきこと>

寝る前の飲食が睡眠に影響した経験は誰しもあるだろう。デザートとコーヒーを楽しんだ後、午前2時になっても目が冴えているかもしれない。しかし、1日を通しての食事の選択が、夜の睡眠にも影響を与えていると考えたことがあるだろうか。

アメリカではかなりの割合の人が、睡眠の質が悪く、不眠症や閉塞型睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害に苦しんでいる。その一方で、多くの人が脂肪分や加工食品を摂取しすぎており、食物繊維や果物、野菜が不足している。

私は栄養疫学の研究者として、集団レベルで食習慣を調査し、健康に及ぼす影響を考察している。政府が5年ごとに発行する「アメリカ人の食生活ガイドライン」と睡眠時間の長さに注目した研究もその1つだ。

2011~16年に収集されたデータによると、果物、野菜、豆類、全粒穀物を十分に摂取するといった食事に関するガイドラインの推奨事項に従っていない人は、睡眠時間が短かった。

別の研究では、果物と野菜の1日の摂取量を増やすためにウェブベースの食事介入研究に参加した21~30歳の1000人以上を追跡調査した。その結果、3カ月にわたり野菜と果物の摂取量を増やした人は、睡眠の質が向上し、不眠症状が軽減していた。

より健康的な食事様式が、睡眠の質の向上と不眠症状の軽減に関連することを示す研究は、アメリカに限らない。

地中海食(植物性食品、オリーブ油、魚介類が豊富で、赤身肉や砂糖の添加が少ない食事)や、抗炎症食(地中海食に似ているが、血中の炎症性バイオメーカーを低下させるフラボノイドなど、特定の成分を重視する)も、そうした食事様式の1つだ。

総体的に健康的な食事様式には、特に睡眠の質に関連する可能性がある食品や栄養素が数多く含まれている。例えば、脂肪分の多い魚、乳製品、キウイフルーツ、タルトチェリー、ベリー類などについて、睡眠の質の向上との関連を示す研究がある。

こうした食品が睡眠に影響を与えると考えられている経路の1つは、脳内で睡眠と覚醒のサイクルを調節するホルモンであるメラトニンの分泌を促すことだ。

豆類やオートミールなど食物繊維が豊富な食品や、特定のタンパク質源、特にアミノ酸のトリプトファンを多く含む鶏肉も、質の高い睡眠と関連がある。マグネシウム、ビタミンD、鉄分、オメガ3脂肪酸、マンガンなどの栄養素も有益かもしれない。

「寝酒」は熟睡できない

ただし、食品や食事様式と睡眠に関する研究の多くは、食事が睡眠に影響を与えるのか、それとも睡眠が食事に影響を与えるのか、その関係性を明快に示せていない。現実的には健康的な食事が質の良い睡眠を促し、それが良い食習慣を強化するという循環的な関係である可能性が高い。

また、観察が中心の研究では年齢や経済状態などが、睡眠と食事の両方と重要な相関関係にある場合も考えられる。

睡眠に悪い影響を与える食品を避けることも重要だ。主な食品を挙げておこう。

ハンバーガーやフライドポテト、加工食品などに含まれる飽和脂肪酸は、脳や体の回復のために最も重要とされる徐波睡眠(深いノンレム睡眠)を減らす可能性がある。

白いパンやパスタに含まれる精製された炭水化物は代謝が早く、夕食に食べると空腹で目が覚めやすくなるだろう。

アルコールは睡眠の質を乱す。鎮静作用があるから寝つきは良いかもしれないが、睡眠の前半のレム睡眠が短くなって睡眠パターンが乱れ、夜中に目が覚めることが増える。カフェインは就寝の6時間前に摂取しても、熟睡を妨げる可能性がある。

私たちの研究チームは最近、食品やその包装に含まれる農薬、水銀、フタル酸エステル(プラスチックの製造に使われる化学物質)などの有害物質が、睡眠に影響を及ぼす可能性があることを明らかにした。食品によっては、睡眠に有益な成分と有害な成分が混在していると考えられる。

体内時計を考慮した「時間栄養学」も、食生活と睡眠の関連を説明するのに役立つ。食事の時間が一定であることは、良質な睡眠と関連するという研究がある。さらに、夜遅い食事はスナック菓子など不健康な食品の摂取と関連することが多く、睡眠がより断片的になる可能性がある。

睡眠と食事のパズルの非常に興味深い点は、その関連性がしばしば性別によって異なることだ。例えば、健康的な食事様式と不眠症状との関連は女性のほうが強いようだ。睡眠には性差があり、特に女性は男性より不眠症になりやすいと考えられている。

総合的に、1日を通して健康的な食事様式を心がけ、早い時間に摂取するカロリーの割合を高くするのが好ましい。睡眠を劇的に改善する魔法の食べ物や飲み物はない。

The Conversation

Erica Jansen, Assistant Professor of Nutritional Sciences, University of Michigan

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中