最新記事
中東

世界がまだ気付いていない「重大リスク」...イスラエルとヒズボラの「戦争が迫っている」と言える理由

The Inevitable War

2024年3月6日(水)11時08分
スティーブン・クック(米外交問題評議会上級研究員)

イスラエルの制約となっている最後の要素が、米議会の機能不全だ。ガザでの戦闘勃発から5カ月が過ぎるなか、イスラエル軍は一部兵器を補充する必要性に迫られている。しかし米下院は対外支援法案の採択を拒否しており、今のままではヒズボラの重要拠点を無力化するのに不可欠な精密誘導兵器を調達できない。

外交的な解決は不可能

それでも、米議会はいずれ本腰を入れて対外支援法案を可決するだろう。イスラエルは今も米議会で高い支持を得ている。アナリストらは特別な事情がない限り、イスラエルへの安全保障上の支援は容易に可決されるとの見方を示している。

しかし米議会ではこのところ、広く支持されてきた取り組みや法案が、政治の二極化や権力政治、議会の機能不全による混乱に巻き込まれている。議論の余地が比較的少ない対イスラエル支援は、より賛否の多いウクライナ支援や、アメリカ最大の政治的争点である国境管理の問題とつながっている。選挙の年に突入した今、複雑さを増しているウクライナ情勢と、国境管理問題が解決するまで、イスラエルは待たされることになるかもしれない。

米議会は最終的には行動を起こすはずだ。そうなれば、イスラエルの最後の制約がなくなる。おそらくその頃までにはガザでの軍事作戦は縮小され、イスラエル軍はヒズボラ対策に集中できるようになっている。

ヒズボラとイスラエル双方にとっての制約が緩むと、あらゆる兆候が戦争勃発の可能性を指し示す。

両者の互いへの攻撃は、双方のより奥深い場所で、より大胆に展開されるようになってきた。2月26日にはイスラエル軍が、レバノン南部でドローンを撃墜された報復として東部のベカー高原にあるヒズボラの防空施設を攻撃。その前にはヒズボラがイスラエル北部にドローンを送り込み、イスラエル空軍はレバノン南部の武器庫を攻撃した。

戦争回避に向けた努力をしているアメリカとフランスには、賛辞を贈りたい。だが両国が認識しつつあるとおり、ヒズボラとイスラエルの間では双方が納得する結末が描けず、外交的な解決はあり得ない。そうなると今後は、ヒズボラを率いるナスララが部隊にリタニ川へ後退するよう命じるか、イスラエルが力ずくでそうさせるかのどちらかだ。

ヒズボラは抵抗するだろう。彼らは抵抗のために存在し、抵抗こそがレバノン国内での名誉挽回に最も理にかなった方法だ。戦争勃発を止める手だては、もうなさそうだ。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 台湾有事 そのとき世界は、日本は
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月26日号(8月19日発売)は「台湾有事 そのとき世界は、日本は」特集。中国の圧力とアメリカの「変心」に強まる台湾の危機感。東アジア最大のリスクを考える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、サムスンなど企業幹部と会談 トランプ氏

ビジネス

日経平均は3日ぶり反落 最高値更新後に利益確定 方

ビジネス

アングル:米中の関税停止延長、Xマス商戦の仕入れ間

ビジネス

訂正-午後3時のドルは147円後半でもみ合い、ボラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 10
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中