最新記事
沿ドニエストル地方

モルドバの親ロ派地域がロシアに「保護」を求める

Fears of imminent Russian invasion sparked in European country

2024年2月29日(木)16時10分
ブレンダン・コール

ウクライナに攻められることを恐れてロシアに保護を求めた沿ドニエストル地方(2021) Photographie de Antoine Martin / Hans Lucas.

<新ロシア派地域であるがゆえにウクライナの攻撃を恐れる沿ドニエストル地方はロシアに助けを求め、沿ドニエストル地方を擁するモルドバはモスクワの介入を恐れている>

ウクライナと国境を接するモルドバにある親ロシア派地域、沿ドニエストル地方の議会は2月28日、ロシアに安全保障面での支援を求める決議を採択した。親ロ派のこの小さな地域に、ウクライナが軍事侵攻するのではないかと恐れてのことだ。

沿ドニエストルはいっそロシアに併合されることを求めるのではないかという観測が事前に浮上しており、モルドバ政府は警戒感を強めていた。

ロシア国営タス通信によれば、今回の決議はロシアに併合を求めるものではなかったが、「モルドバからの圧力の高まり」を理由として、ロシア議会に対して沿ドニエストル地方を守る上での支援を求める内容だった。モルドバ政府はドニエストル地方の経済を破壊し、住民の自由を侵害しており、ロシアは「保証人および調停者」としてモルドバ政府から沿ドニエストル地方を守るべきだと述べている。

shutterstock_2149808779.jpg
Peter Hermes Furian-Shutterstock.
Transnistria=沿ドニエストル地方

議会、市、地区と村の代表者600人が合意した文書には、沿ドニエストル地方は「自らのアイデンティティーと住民の権利および利益を守るために闘う」と記されている。

リトアニアを拠点とする東欧研究センターのリスクアナリスト、ディオニス・セヌサは本誌に対して、この声明は「ロシアに対する要請が控えめ」であり「モルドバ政府に対する非難も穏やかなトーン」だと述べた。

ドネツク侵攻を彷彿とさせる

この文書の発表を受けて、ロシアの次の動きをめぐる憶測が飛び交っている。ウクライナ東部のドンバス地方では、親ロ派の訴えがロシアによる本格侵攻のきっかけになった経緯があるためだ。

市民メディアグループ「Ukraine Front Lines」はX(旧ツイッター)に、「沿ドニエストル地方は、モルドバでドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国と同じ流れを作り出すために敵と手を組んでいる」と投稿した。両地域はロシアの後押しを受けて一方的にウクライナから独立し、その後ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が一方的に併合を宣言した。

「Ukraine Front Lines」はさらに、「ウクライナは沿ドニエストル地方に駐留するロシア軍の部隊が、ウクライナの正当な標的であることを明確にするべきだ。ウクライナ軍の司令部は、沿ドニエストル地方をロシア軍から解放する手助けを行うべきだ」とつけ加えた。

XユーザーのJürgen Naudittは、「沿ドニエストル地方が今日、ロシアに助けを求めた。侵略国(ロシア)のメディアは、沿ドニエストルの議会に提出された決議案の一部を拡散した。この決議案にはモルドバからの『圧力』があると記されている」と投稿した。

著者でジャーナリストのペッカ・ビルキーは、Xに次のように投稿した。「西側諸国がウクライナへの追加支援をためらい続けるなか、ロシアによる侵略は私たちの多くが予想した以上のペースで進んでいる。そろそろウクライナとモルドバが先手を打って、沿ドニエストル地域を奪還すべきだろうか」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブラジル中銀、経済指標に基づいて政策金利を決定へ=

ワールド

欧州首脳、制裁によるロシアへの圧力強化で合意 独首

ワールド

ロ米EU英とのハイレベル会合を検討中、ウクライナ大

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の保護資格打ち切るトランプ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国は?
  • 4
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 5
    【裏切りの結婚式前夜】ハワイにひとりで飛んだ花嫁.…
  • 6
    実は別種だった...ユカタンで見つかった「新種ワニ」…
  • 7
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 8
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 9
    日本人女性の「更年期症状」が軽いのはなぜか?...専…
  • 10
    飛行機内の客に「マナーを守れ!」と動画まで撮影し…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中