最新記事
シリア

イスラエルのガザ攻撃に対する「イランの民兵」の報復で米軍兵士が初めて死亡:困難な舵取りを迫られる米国

2024年1月29日(月)19時00分
青山弘之(東京外国語大学教授)

攻撃への関与を認めるイラク・イスラーム抵抗

イラク・イスラーム抵抗は1月28日にテレグラムを通じて3つの声明を発表した。このうち午後2時24分に発表した2番目の声明で、ガザ地区に対するイスラエルの攻撃への報復として、シリアのシャッダーディー(ハサカ県)、ルクバーン、タンフ(いずれもヒムス県)の基地、イスラエルの「ズフールーン」(クレイヨット)海上施設をドローンで攻撃したと発表した。

image2.png

イラク・イスラーム抵抗の声明(テレグラム(@elamharbi)、2024年1月28日)

「ルクバーンの基地」はどこにあるのか?

このうち「ルクバーンの基地」が、米軍兵士3人が死亡した基地と思われる。だが、この基地がヨルダン領内にあるのか、シリア領内にあるのかは、定かではない。

イラク・イスラーム抵抗は、今回の攻撃を含めて3回、「ルクバーンの基地」を攻撃したと発表している。しかし、その呼び方は微妙に異なっている。

昨年10月23日の声明では「ルクバーンの米占領国基地」、12月13日の声明では「ルクバーン・キャンプの(米)占領国基地」と書かれている。これに対して、今回の声明では「ルクバーンの基地」となっている。

「ルクバーン」と「ルクバーン・キャンプ」は、単なる標記の揺れなのかもしれない。だが、実は大きな違いがある。なぜなら、「ルクバーン」とは、ヨルダン北東部のシリア・イラク国境に近い砂漠地帯の名称である一方、「ルクバーン・キャンプ」は、ヨルダン領とシリア領を隔てる緩衝地帯のシリア領側に設置されている国内避難民(IDPs)を指すからだ。

つまり、「ルクバーン」はヨルダン領、「ルクバーン・キャンプ」はシリア領なのである。ルクバーン・キャンプは2014年に設置された。

イスラーム国がイラク領内やシリアのヒムス県、ラッカ県、ダイル・ザウル県に勢力を拡大したこの年、シリアから多くの住民がヨルダンに向けて脱出を試みた。だが、この時すでに60万人以上のシリア人を難民として受け入れていたヨルダンは、さらなる難民の受け入れを拒否した。そのため避難民はヨルダン・シリア国境の緩衝地帯に留め置かれることになった。こうしたなか、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などの支援を受けて、緩衝地帯に設営されたのがこのキャンプだった。

キャンプには、最大時で50,000人が身を寄せるとともに、シリア自由軍(旧革命特殊任務軍)、殉教者アフマド・アブドゥー軍団といった反体制派武装集団(いわゆる自由シリア軍)が拠点を置いた。

米国が主導する有志連合は2016年3月、ルクバーン・キャンプの20キロほど北東に位置するタンフ国境通行所を制圧し(通行所は2015年3月にイスラーム国がシリア政府から奪取していた)、ここに基地を建設した。基地には米軍が200人規模の部隊を、英軍が50人規模の部隊を駐留させるとともに、シリア自由軍や殉教者アフマド・アブドゥー軍団が拠点を設置し、米軍がこれらの組織に対する教練を行った。

シリア政府は同地の奪還を試みた。だが、米軍はタンフ国境通行所から半径55キロの地域が、領空でのロシアとの偶発的衝突を回避するために2015年10月に両国が設置に合意した「非紛争地帯」に含まれると主張、占領を続けた。タンフ国境通行所一帯地域は以降、「55キロ地帯」(55km Zone)と呼ばれるようになった。

image3.jpeg

現在のシリアの勢力図(筆者作成)

なお、米国(有志連合)は2024年9月にイスラーム国を壊滅するとしてシリア領内で軍事行動を開始した。だが、それは、国連安保理決議による承認も、シリア政府を含むシリアのいかなる政治主体の同意も得ることなく行われた違反行為だった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国が秘密裏に核実験、米国が非難 新たな軍備管理合

ビジネス

ユーロ高、政治的意図でドルが弱いため=オーストリア

ビジネス

英シェル、カザフ新規投資を一時停止へ 政府との係争

ビジネス

ECB、インフレ下振れリスク懸念 ユーロ高を警戒
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 3
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 8
    「反トランプの顔ぶれ」にMAGAが怒り心頭...グリーン…
  • 9
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中