最新記事
中印国境

中印国境に軍隊を送る幹線道路、インド方面にも中国の拡張主義

China Builds New Highway Near India To Move Troops for Border Standoff

2023年12月21日(木)17時27分
アーディル・ブラール
新疆ウイグル自治区で訓練用の砲弾を運ぶ人民解放軍兵士

新疆ウイグル自治区で訓練用の砲弾を運ぶ人民解放軍兵士。向かいはインドのラダック地方(7月3日) CHINA MILITARY NETWORK

<20万人の中印両軍がにらみあう係争地帯の近くに、兵士と後方支援を輸送する幹線道路が完成した>

中国がインドとの国境近くに建設している幹線道路の完成が近づいている。アジアの2大国である中国とインドは軍事的対立を続けているが、この道路が完成すれば、中国は紛争発生時に人民解放軍を迅速に派遣することができるとみられる。

現在、中印間の国境紛争地域では、実効支配線が中国支配地域とインド支配地域を分けているが、インドのラダック地方の東側の地域に関して、中国は長い間、新疆ウイグル自治区とチベット自治区を結ぶ国道G219号線というというアキレス腱に頭を悩ませてきた。中国の西と南の国境沿いを通るこの道路は、インドと係争地域であるアクサイチンを通過するのだ。

中国の軍事戦略家たちにとって、インドとの紛争が発生した場合、G219号線が使えなくなる可能性があることは、長年の大問題だった。自国の領土を隅々まで守ると宣言した習近平国家主席の下、中国はこの弱点を解消するべく国道G216号線という代替ルートの建設に着手した。

インドとの紛争が起きた場合、中国軍の部隊を戦場にダイレクトに送り込むための道路網の一部として中国政府がG216号線の建設を発表したのは、2022年7月のことだった。そこには「新疆ウイグル自治区からチベット自治区への戦略的基幹道路」の構築という目的もあった。

nationalroad.jpg

中国が2022年7月12日に発表した計画を基にした地図。画面中央、ピンクの中印国境近くに戦略道路G126が見える WEIBO

 

紛争に備えた道路建設

「この道路は中印国境にかなり近い」と、当時ある中国人ブロガーは指摘し、インド外務省から厳しい抗議があるだろうと予測した。

本誌が公開されている現地の映像を分析したところ、完成したG216号線の新区間はすでに、新疆ウイグル自治区を横断する旅行者が利用できるようになっていた。

中国の国営放送CCTVは11月、新疆ウイグル自治区のウルムチと玉里県をつなぐ、現在世界最長とされる新しいトンネルの開通を祝った。中国のソーシャルメディアアプリ新浪微博(ウェイボー)では11月下旬、国のインフラが「天山(山脈)を突破しようとしている」と宣言するハッシュタグがトレンド入りした、

だが、祝賀イベントの背後では、G216号線とインド国境沿いの紛争地域とを結ぶ中国政府の計画が着々と進行していた。インターネット上の映像を見れば、この新しい国道はインドがラダックの一部と主張するアクサイチンの近くを通っていることがわかる。

G216号線は、北はアルタイ県を起点に天山山脈を越え、新疆ウイグル地区の町バルンタイまで、全長532マイル(856キロ)に及ぶ。また、この路線の新しい区間は、新疆ウイグル地区の首府ウルムチからチベットを経由して雲南省南西部のミャンマー国境附近の瑞麗に至る。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中