最新記事
中印国境

中印国境に軍隊を送る幹線道路、インド方面にも中国の拡張主義

China Builds New Highway Near India To Move Troops for Border Standoff

2023年12月21日(木)17時27分
アーディル・ブラール

かつては工事が難しい地形のためにG216号線の建設が妨げられたこともあったが、中国はこの難題を克服した、と本誌に語ったのはインド陸軍の元将軍で、現在はニューデリーにあるシンクタンク、ヴィヴェーカナンダ国際財団の特別研究員ラケシュ・シャルマだ。

「G216号線とG219号線はいまや地域一帯の部隊を後方支援するための幹線道路となっている。新疆ウイグル自治区から続く主要幹線道路とつながったからだ。両国道は、兵站の維持と部隊の往来のために開発された2つの軸といえる」と、以前ラダックに駐屯していたシャルマは言う。

 

さらに、現在建設中の国道G695号線は、中国軍とインド軍が部隊の配備を続けている地域により近づくことになる。

「G695号線は、両国の部隊が対峙している実効支配線から10~15キロ圏内を通ることになるため、また別の問題を生みだすだろう」と、シャルマは語った。

「北部の国境地帯を通るこの国道は、インド軍に対峙する中国軍にとって重要な道路となるだろう。なぜなら、この道路がつながることで、軍の大規模な移動が起こり得るからだ」

インドはインドで、将来、中国との武力衝突が起こる可能性を視野に入れ、中国との国境附近で独自の戦略的インフラを拡張している。

<中朝国境の係争地域(茶)>
chinaindiaboadermap.jpg

中国軍部隊の優位を確保

G695号線の建設は「少しずつ」続いているとシャルマは指摘し、この国道のおかげで中国は、移動が難しい地形にもかかわらず部隊を送りやすくなり、インドよりも優位に立つ可能性があると語った。インドは難題を突き付けられた格好だ。

ラダック東部の3380キロに及ぶ実効支配線の両サイドにはそれぞれ約10万人の兵士が残っていると推定される。緊張緩和を目的として2国間協議が20回も行われたが、両軍は膠着状態に陥ったままだ。

シャルマによれば、中国は実効支配線に沿って、橋やその他のインフラを建設しているため、中国人民解放軍がこの地域に常駐することになり、国境の係争地域に配備されたインド軍のかなりの部分がその場に足止めされることになるという。

12月11日、インドの最高裁判所はナレンドラ・モディ首相率いる政府の事実上の支配をさらに強固にするために、ジャム・カシミールから特別自治区としての地位を剥奪するという2019年の決定を支持した。この後、中国政府はインドが支配するジャンムー・カシミールに対する領有権を再び主張した。この地域に関しては、パキスタンも領有権を主張している。

「中国は、インドが一方的かつ違法に設定した、いわゆるラダック連邦直轄領を承認したことはない。インド国内の司法判断は、中印国境の西側部分が常に中国に属してきたという事実を変えるものではない」と中国外務省の毛寧(マオ・ニン)報道官は述べた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中