「10億ドルの鉄壁」が破られた、アメリカがハマスの奇襲成功から学ぶべきハイテクの欠陥

DISASTER AT THE BORDER

2023年12月11日(月)12時05分
デービッド・H・フリーマン(科学ジャーナリスト)

ハマス程度の弱小集団がイスラエルのハイテク防御を突破できるなら、はるかに進んだ技術力を持つ潜在的な敵性国家が防御技術におけるアメリカの優位を脅かす可能性も考える必要がある。

「これらの国とその代理勢力のテロ組織は、ますます能力を高め、極めて高度な技術を手に入れようとしている」と、民主主義防衛財団のボーマンは言う。

中国とロシアは、今やサイバー戦争とAIのエキスパートだ。

独自のステルス爆撃機や、既存のミサイル防衛システムでは撃ち落とせない極超音速ミサイルを実戦配備している。

イランは世界有数の爆弾搭載ドローンの保有国であり、北朝鮮は射程距離1万キロ以上の核ミサイルを最大60発発射できる能力がある。

10月7日の惨劇から学べる最も重要な教訓は先端技術だけに頼りすぎることの危険性だと、イスラエル軍と密接な関係を持つ防衛シンクタンク「IDSF」のヨッシ・クーパーバッサー研究部長は強調する。

「遠くから状況をコントロールできるので、現場にいる必要はないと感じるようになったら、それは大失敗の始まりだ」

クーパーバッサーは陸軍情報部隊の元調査責任者。2度の戦争に従軍した経験から、先端技術の限界を痛感しているという。

「どんなテクノロジーも戦場の兵士に取って代わることはできない」

先端技術の魅力は地上軍の兵士に比べて低コストなことだと、クーパーバッサーは言う。

経済面に加え、人的損害も減らせるという意味だ。

ハイテク兵器は食料や水、給料なしに不眠不休で働き、人間の目が見落としがちな対象を捕捉し、人間よりも速く正確に、より遠くを攻撃できる。それに、機械が破壊されても誰も泣かない。

最後にものをいうのは数の力

民間人を守り、戦いに勝てるのは先端技術と人間の適切な組み合わせだと、クーパーバッサーは主張する。

「AIや最先端のテクノロジーは人間の助けになるが、どこかで人の手が関わることが必要不可欠だ。機械に依存しすぎると、私たちのように不意を突かれる。敵を抑止する技術的解決策を導入するたびに、敵もそれを克服する方法を考え出す」

敵は洗練された高価な先端技術を単純なローテクで巧みに無力化する方法を身に付けつつある。

「ハマスは市販のテクノロジーを使い、何百万ドルもするセンサーや戦車に対抗した」と、ブルッキングス研究所のネルソンは指摘する。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:高級品業界が頼る中東富裕層、地政学リスク

ワールド

トランプ氏、イラン制裁解除計画を撤回 必要なら再爆

ワールド

トランプ氏、金利1%に引き下げ希望 「パウエル議長

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中