最新記事
ウクライナ情勢

「支援疲れ」が広がるなかで「プーチンの考え」を完全に読み違える西側諸国

The West’s False Choice in Ukraine

2023年12月5日(火)12時30分
ノーナ・ミヘリーゼ(伊シンクタンク・国際問題研究所上級研究員)、ナタリー・トッチ(同研究所所長)
アメリカが供与した自走式防空システム「アベンジャー」で首都を守るウクライナ兵

アメリカが供与した自走式防空システム「アベンジャー」で首都を守るウクライナ兵(キーウ近郊で、11月末) KOSTYA LIBEROVーLIBKOS/GETTY IMAGES

<「粘り勝ち」を目指すロシアに対して、今問われているのは「妥協か戦争続行か」ではない。停戦をうながす西側の勘違いとは?>

ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は反転攻勢を始めてから5カ月たった11月初め、陰鬱な戦況報告をした。ウクライナとロシアの陣地戦は膠着状態に陥り、このままではロシア有利に傾く恐れがある、というのだ。

折しも西側では「支援疲れ」が広がり、停戦交渉を求める声が高まっている。ザルジニーは今から1年前、反転攻勢で大きく前進するために必要な支援を西側に具体的に求めた。

防空システム、戦闘機、主力戦車、歩兵戦闘車、榴弾砲、長距離ミサイル......。勝算はあると、当時彼は言い切った。「ただし、それには軍事資源が必要だ!」

しかし西側の支援は品目も量もザルジニーの求めるレベルに遠く及ばなかった。

西側が支援をためらったせいでロシアは時間稼ぎができ、障害物や塹壕や地雷原を広範囲に設けて防御を固めた。

なかでもウクライナ軍の痛手となったのは、アメリカがつい最近まで長距離射程の地対地ミサイル「ATACMS」の供与を渋り、ドイツも巡航ミサイル「タウルス」の供与を見送ったことだ。

西側の迅速かつ寛大な支援があればウクライナ軍が快進撃できたという保証はないが、それがなかったために膠着状態に陥ったことは確かだ。

ロシアは10、11月にウクライナ東部のアブディイフカなどウクライナ軍の拠点に兵力を集結させて攻勢に出た。それにより多大の犠牲を出したものの、一定の成果はあった。小さな領域を奪ったところで戦略的な価値は疑わしいが、心理戦での効果は明らかだ。

ロシアの攻勢は前線で再びロシアが主導権を握ったという印象を西側に与えた。ウクライナの反転攻勢がパッとしなかったことも手伝って、ロシアが優勢になるとの見方が広がり、それが西側の支援疲れを助長して停戦交渉を求める声が一気に高まったのだ。

実際、西側の支援戦略は行き詰まっている。西側は口に出しては言わないものの、腹の中では「決定的な勝利ではなく、ウクライナの存続を保証すること」を目指していた。その結果として今、困難な選択を迫られている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中