大学に「公式見解」は要らない...大学当局が「戦争に沈黙すべき」3つの理由とは?

A PROFESSOR’S WARNING

2023年11月15日(水)16時15分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

231121P48_DBR_03.jpg

イスラエル支援をめぐる米上院公聴会の傍聴席で反戦を訴える人々(写真背後) KEVIN LAMARQUEーREUTERS

公式見解が間違っている可能性はあるし、少なくとも疑問の余地があるかもしれないのに、それを探る意欲さえも失われてしまうかもしれない。

カルベン報告書は、「(大学が)集団として一致した意見を構築すると、大学の繁栄の基盤である反論の自由を必ずや妨げてしまう」と指摘している。「(大学とは)公的な問題について多数決で見解を構築する共同体であってはならない」のだ。

第2に、社会問題であれ、政治問題であれ、ひとたび重要な問題に大学としての公式見解を示すと、それ以降、一部の声高な人々が重要と考える問題についても見解を示すよう求められることになる。

例えば、ウクライナでの戦争について公式見解を示した大学は、将来、大きな注目を集める戦争についても公式見解を求められるようになり、それを断るのは難しくなるだろう。大学の「お墨付き」をあらゆるタイプの団体から求められるようになり、それを拒否すれば、その問題の重要性を低く位置付けている証拠と見なされることになる。

ひとたび大学がこの道を選ぶと、大口寄付者や声高な主張をする人たちに大学の威厳が左右される恐れがあるし、大学幹部はその見解に反対する人たちから容赦ない攻撃を受けるだろう。

開かれた議論を守り続ける

第3に、規範や、重要な社会問題や政治問題に関する理解は時代とともに進化するため、大学が現在の政治論争で何らかの立場を表明すると、間違っていたと分かったときに面目を失うことになる(20世紀前半の優生思想や、アイビーリーグの入学に関する悪しき慣行がそうだった)。

教員が後世の学問によって誤りを暴かれ、擁護した政策が後に愚かだとか忌まわしいとさえ言われるようになれば、個人の評判は傷つくかもしれない。

それは学問をする者のリスクだ。しかし、教員や学生の個人の立場を大学として支持していなければ、自由な探究の場としての大学の評判が傷つくことはない。

カルベン報告書が指摘するように、その原則には例外がある。大学はその使命を遂行する能力に直接影響を与えるような社会的・政治的問題について、意見を述べることができるし、述べるべきなのだ。例えば、検閲やアメリカへの忠誠の誓い、政府による研究支援、留学生のビザなどに関わる問題だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース対米輸出規制緩和で米軍関連企業を除

ワールド

ユーロ圏の銀行、気候対策次第で与信条件に差 グリー

ワールド

米韓合意の文書いまだ発表されず、潜水艦問題で難航か

ワールド

NY市長選、マムダニ氏当選でユダヤ系有権者に亀裂 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中