大学に「公式見解」は要らない...大学当局が「戦争に沈黙すべき」3つの理由とは?

A PROFESSOR’S WARNING

2023年11月15日(水)16時15分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

231121P48_DBR_02.jpg

ベトナム戦争の反戦デモ(1971年、ワシントン記念碑前) DAVID FENTON/GETTY IMAGES

つまり組織や機関としての大学は、開かれた探究を行う能力が直接的な危機にさらされるような事案でない限り、社会的・政治的な重要問題について特定の立場を取るべきではないというのだ。

例えば、外国に対して戦争を始めることが賢明かどうかや、死刑制度の是非、マスク着用義務の合法性といった議論に、大学は組織として見解を示すべきではない。

それと同じように、現在のイスラエルとハマスの戦争について、大学としての見解を構築・発表したり、その原因や解決策について大学として見解を表明したりするべきではない。

対応を間違えたハーバード

もちろん、個々の教員や学生にこの原則は当てはまらない。それどころか、大学が公式見解を出すべきでないという原則は、教員や学生の言論や学問の自由を守るためにある。

彼らは、大学が自分たちの学問の自由を守ってくれると信頼した上で、言いたいことを言い、書きたいことを書ける。その一方で大学は、彼らの見解が正当な批判を受けることから守ってくれたりはしない。

例えば、10月7日のハマスの奇襲攻撃の直後に、ハーバード大学のある学生団体は、イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区について声明を発表した。

その声明が説明するこの戦争の原因は不正確なものであり、有効性が乏しいと、私は個人的には思う。また、ハマスの戦争犯罪に一切触れていないのは道徳観が鈍っている証拠であり、この声明に署名した学生たちが、他の学生や一部教員の批判を浴びたのはもっともだと、私は思う。

これについて大学は、学生たちは大学ではなく個人の見解を表明したにすぎないと発表するだけでよかったはずだ。それ以外、大学幹部はこの戦争について沈黙を守るべきだった(編集部注:ハーバード大学のクロディーン・ゲイ学長は10月10日、いかなる学生グループも大学の見解を代表して語れないと表明すると同時に、ハマスのテロ行為を明確に非難した)。

大学が中立の立場を維持するべき理由は、主に3つある。

第1に、大学(より正確にはその幹部)が、大きな論争となる問題について公式見解を示すと、たちまちその大学における学問の自由が妨げられる恐れが生じる。

公式見解に賛同できない教員や学生は、自分の意見を表明することに二の足を踏むようになり、自由闊達な意見交換ができなくなってしまう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:米との貿易協定リセットは困難か、違憲判決

ワールド

トランプ米大統領、代替関税率を10%から15%に引

ビジネス

エヌビディアやソフト大手の決算、AI相場の次の試金

ワールド

焦点:「氷雪経済」の成功例追え、中国がサービス投資
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 2
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 3
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 4
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 5
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 6
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 7
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 8
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 9
    「高市トレード」に「トランプ関税」......相場が荒…
  • 10
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 6
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 7
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 10
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中