最新記事
中東情勢

中東情勢、再び緊迫の時代へ......ハマース、イスラエル、シリアの軍事対立が示すもの

2023年10月13日(金)16時30分
青山弘之(東京外国語大学教授)
上空から見たアレッポ国際空港

10月12日、イスラエル軍がシリアの首都ダマスカスとアレッポの空港をミサイル攻撃した。写真は2020年2月、アレッポ国際空港から撮影(ロイター/Omar Sanadiki)

<2023年10月7日から始まったパレスチナのハマースによるイスラエルへの大規模作戦「アクサーの大洪水」。その影響はイスラエルとパレスチナだけでなく、シリア、レバノン、イランなど、中東全体に波及している。作戦の背後にある動機、イスラエルと周辺国との間で発生している軍事的な応酬、および世界に与える影響を考える......>

2023年10月7日、パレスチナのハマースがイスラエルに対する大規模奇襲作戦「アクサーの大洪水」作戦を開始して6日が経った。イスラエルがガザ地区に対する地上作戦を準備するなか、イスラエルと戦争状態にあるシリア、レバノンとの間でも、パレスチナのイスラーム聖戦機構、レバノンのヒズブッラー(あるいは同組織が主導するレバノン・イスラーム抵抗)とイスラエル軍との散発的な砲撃戦が発生している。

イスラエルのシリア爆撃

こうしたなか、10月6日、イスラエルはシリアのダマスカス国際空港(ダマスカス郊外県)とアレッポ国際空港(アレッポ県)に対する爆撃を実施した。

中東情勢をさらに緊迫化させかねないこの爆撃は日本では衝撃をもって報じられた。だが、イスラエルによるシリアの爆撃は、「アクサーの大洪水」作戦が発生する以前から恒常的に続けられている。

イスラエルがシリアに対して爆撃をはじめとする侵犯行為を行うのは、今年に入って29回目、ないしは33回目となる。侵犯行為の回数を特定できないのは、攻撃主体を特定できない侵犯行為が4件あるためである(拙稿「イスラエルが「イランの民兵」を狙ってシリア南東部のダイル・ザウル県各所を爆撃:沈黙する欧米、ロシア」YAHOO! JAPANニュース、2023年10月4日など)。

「アクサー大洪水」が開始されて以降、イスラエルがシリアに対して行った侵犯行為は、10月13日未明の段階で2回、ないしは3回である。

シリアへの爆撃と「イランの民兵」

1回目は、10月10日未明に、シリア政府の支配下にあるダイル・ザウル県のユーフラテス川西岸のイラク国境に位置するブーカマール市近郊の複数ヵ所に対する戦闘機1機による爆撃である。

反体制系メディアのナフル・メディアやノース・プレスによると、爆撃では、爆撃は午前2時半頃に行われ、イラン・イスラーム革命防衛隊が管理し、「イランの民兵」が物資の輸送に使用しているハリー村の非正規の国境通行所(鉄道通行所)、ブーカマール市一帯に設置されているイラン・イスラーム革命防衛隊の陣地複数ヵ所、パレスチナ人民兵組織のクドス旅団の陣地が狙われた。ハリー村の通行所には、爆撃時に10月9日午後にイラクからシリア領内に入った貨物車輌12輌が駐車していたという。また爆撃は、シリア領内に限られず、ブーカマール国境通行所に面するイラク側のカーイム国境通行所に近いハスィーバ地区にも及んだ。

爆撃を行った戦闘機の所属は不明だ。だが、これまでに同地に対して有人・無人爆撃機によって爆撃を行ったことがあるのは、イスラエルと米主導の有志連合以外にはない。

Naher Mediaが公開した爆撃の映像(10月10日)


なお、「イランの民兵」、あるいは「シーア派民兵」とは、紛争下のシリアで、シリア軍やロシア軍と共闘する民兵の蔑称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。シリア政府側は「同盟部隊」と呼ぶ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィリピン、大型台風26号接近で10万人避難 30

ワールド

再送-米連邦航空局、MD-11の運航禁止 UPS機

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中