最新記事
災害

数万人行方不明は人災だった! 危険性指摘も修復せず、洪水でダム決壊したリビアで政府に怒り

2023年9月26日(火)11時05分

暴風雨警報

ダムを修理しなかったことに加え、豪雨が近づく中で住民を危険にさらしたままにしていたことも当局への批判として挙げられている。

デルナのアブドルメナイム・ガイシー市長は15日、「災害の3、4日前に自ら避難を命じた」とアルハダス・テレビで語った。

ただ、仮にそのような要請があったとしても、実際の避難行動には結びつかなかったようだ。複数の住民が避難を呼び掛ける警察の声を聞いたと話しているものの、実際にデルナを去った人はほとんどいなかったという。

中には、住民に対しデルナに残るよう伝えた当局者もいた。デルナ安全理事会が投稿した動画では、「予想される悪天候に備える安全対策の一環として」10日夜から外出禁止令が出されていた。

水資源省は10日夜、すでに大災害が発生していたにもかかわらず、フェイスブック上で「ダムは良好な状態にあり、事態は収拾できている」と呼び掛けた。同省の広報にこの投稿についてコメントを要請したが、返答は得られなかった。

崩壊した国家

国際的に認識されている西部トリポリを拠点とするリビア政府は、ハフタル司令官率いる民兵軍事組織「リビア国民軍(LNA)」の支配下にある東部では影響力を持っていない。

デルナの状況はさらに複雑だ。LNAが2019年にイスラム主義勢力から奪還し統治しているものの、情勢は依然不安定なままだ。

リビアは資源不足の問題を抱えているわけではない。むしろ、12年間の混乱を経ても比較的裕福で、人口密度が低く、原油産出もあり、国民一人あたりの国内総生産(GDP)が6000ドル(約88万5400円)を超える、紛れもない中所得国だ。

ただ、石油資源がもたらす富は、カダフィ政権の崩壊後、行政機関を管理する複数の競合組織へと分配され、ほとんど追跡不可能になってしまった。

トリポリにある暫定国民統一政府のドベイバ首相は14日、ダム工事が完了していない原因として、怠慢や政治的分裂、戦争、「資金の損失」を挙げた。

北東部ベンガジ議会のサーレフ議長は、今回起きたことは「未曽有の自然災害」であり、「事前に何ができたか、何をすべきだったか」ばかり考えるべきではないとして当局の責任を否定した。

デルナ住民は何世代にもわたり、ダムが引き起こす危険を理解していたと歴史教師のユセフ・アルファクリさん(63)は語る。だが、1940年代以降、小規模な洪水を何度も乗り越えてきたアルファクリさんにとっても、今回の災害の恐怖はこれまでの経験とは比べ物にならないほどだったと言う。

「水が家に流れ込み始めた時、私と二人の息子、そして息子の妻たちは屋根に避難した。洪水の勢いは私たちよりも速く、階段の間にも押し寄せてきた」と振り返る。

「皆が祈り、泣いていた。死を目の当たりにした」とアルファクリさん。水が「まるで蛇のような」音を立てて迫ってきたと当時の状況を説明した。

「過去10年間の戦争で数万人を亡くしてきた。だが、デルナは同じ人数をたった1日で失った」

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英GDP、第1四半期は予想上回る前期比0.6%増 

ワールド

イスラエルの武器規定違反は認定せず、米国務省が近く

ワールド

プーチン大統領、ミシュスチン首相の続投提案 議会承

ビジネス

日経平均は反発、好決算物色が活発 朝高後は上げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中