最新記事
インド

「巨象」インドのヒンドゥーな実像...3週間の滞在で見た「真の顔」

THE NASCENT SUPERPOWER

2023年9月19日(火)16時10分
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA工作員)
8月にインドの探査機が世界で4カ国目に月面への着陸を成功させたことを喜ぶBJPの支持者たち

8月にインドの探査機が世界で4カ国目に月面への着陸を成功させたことを喜ぶBJPの支持者たち ANUSHREE FADNAVISーREUTERS

<モディ政権はファシストでナショナリスト? 新興大国の誇りと野心と少しの危うさを知る>

本当はヒマラヤの山麓を3週間かけて歩き回るつもりで、インド軍の元将校2人に案内役を頼んでいた。ところがムンバイのホテルに着いて2日目の朝、部屋の電話が鳴った。

「カール様、お車が来ております。それに2人の......ガイドさんも」

「車? ガイド? 何の話だ?」

「お車は1階で、待っています」

ああ、と私は思った。これが元CIA工作員の宿命か。仕方ない。私は階下へ向かった。

どうやらナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)政権の高官の誰かが私のインド入りに気付き、せっかくだから見学ツアーに「招待」しようと決めたらしい。後に彼らは、私にこう告げた。アメリカ・メディアの描くBJP像やモディ首相像には大いに不満だと。だから私に「本当のインドがどんなか」を見せ、BJP政権の目指すところを教えてやろうというわけだ。

自分たちは一部の有識者が言うほど不寛容な政府ではないし、ファシスト的でも反イスラムのナショナリストでもないと彼らは主張した。そうした見方は、社会主義者でエリートで英語を話す野党・国民会議派による偏見に満ちた言い分だとも。

彼らは3週間にわたって私をインド西部と北部のあちこちに案内した。外交官でも見ることができないような権力の回廊を私に見せ、インドの権力層がインドをどう見ているのか、そしてモディ政権が国のために何を望んでいるかを説明した。

「ヒンドゥトバ」とは何か

インドは1000年もの間、イスラム教徒やムガール帝国、次いで大英帝国に支配され、ヒンドゥー教徒は従属を強いられてきた。だがモディ率いるBJP政権にとってのインドはヒンドゥー教徒の国だ。

それは「ヒンドゥトバ(ヒンドゥー至上主義)」と呼ばれる思想で、ヒンドゥー教こそインド文化と社会の基盤と見なす。20世紀前半の独立闘争の時期に芽生えた思想だが、BJPは1980年代以降、このヒンドゥー至上主義を掲げ、これこそが「インドの魂であり国家の基盤」だと位置付けている。

ライバルの国民会議派は、この思想をインドの多文化主義や寛容性、独立後に採用した民主主義に反する危険なものと捉えている。だが多数派のヒンドゥー教徒はこの思想によって力を得たと感じているようで、モディとBJPは世論調査で一貫して50~68%の支持を得ており、来年の総選挙ではモディが3選を果たす可能性が高い。

だがナショナリズムは危険な不寛容を生む可能性もある。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、モディの首相就任以降、インド政府による人権侵害に対する抗議行動が増えているとし、反対意見を抑え込むために政府が暴力を使う例も増えたと指摘している。ただしBJPはそんな批判を意に介さない。

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、米国に抗議 台湾への軍用品売却で

ワールド

バングラデシュ前首相に死刑判決、昨年のデモ鎮圧巡り

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機100機購入へ 意向書署名とゼ

ビジネス

オランダ中銀総裁、リスクは均衡 ECB金融政策は適
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中