タイにようやく新政権が発足...親軍派と組んだタクシン派新首相の前途多難

国王宣誓式で宣誓し首相に就任したセター(9月5日) ATHIT PERAWONGMETHAーREUTERS
<タイが4カ月の政治空白を経て新政権を発足。タイ貢献党のセターが首相に。新政権は経済政策に注力>
タイにようやく新政権が発足した。9月5日、セター新首相が新閣僚らと国王宣誓式に出席し、就任を宣誓した。
タイでは今年5月14日の下院総選挙後に首相選びの駆け引きが長期化し、政治空白が4カ月に及んでいた。8月22日にやっとタイ国会で首相に選出されたのが、第2党であるタイ貢献党のセターだった。
宣誓式後、セターは閣僚たちと集合写真に納まり、報道陣にこう述べた。「この政権は国民のものだと約束する。ここにいる閣僚全員が国民の代表だ......われわれは国民のために休むことなく働き続ける」
セターは9月11日に国会で政策声明を発表し、翌日には閣僚会議を開く予定だ。タイ政治が新スタートを切るまでにここまで時間がかかったのは、5月の総選挙で、権力と富の中央集権化を真っ向から批判する革新的野党の前進党が勝利したことがきっかけだった。第1党となった前進党が政権を取ることに、軍が指名した上院議員たちが強硬に反発し、7月の上下両院の首相指名選挙で前進党のピター党首は指名に必要な過半数の票を得られなかった。
そこで野党大連立を模索し始めたのが、選挙で第2党となったタイ貢献党だ。同党は、親軍派中心である上院の支持を得るため前進党との協力関係から離脱し、たもとを分かつと表明。だがこれは、タイ貢献党の公約を破るものだった。タクシン元首相を精神的支柱としている同党は、2014年のクーデーターでタクシン派政権を覆した軍と結び付く勢力とは手を組まないとしていたからだ。
今回、タイ貢献党と親軍派が手を結び与党となったことは、民主化運動の中心がタイ貢献党から前進党へと移り、タイ政治が再編されていくことを意味する。また、亡命していたタクシン元首相が8月22日、15年ぶりにタイに帰国したこともこの情勢の変化を象徴していた。
親軍派と手を組み政権をつかんだことを考えれば、内閣の顔触れに過去の閣僚経験者など、おなじみの面々が加わっていることも驚きではない。親軍政党「国民国家の力党(PPRP)」からは、5人の出身者が閣僚メンバー入りした。