最新記事
タイ

タイにようやく新政権が発足...親軍派と組んだタクシン派新首相の前途多難

2023年9月12日(火)12時00分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
国王宣誓式で宣誓し首相に就任したセター

国王宣誓式で宣誓し首相に就任したセター(9月5日) ATHIT PERAWONGMETHAーREUTERS

<タイが4カ月の政治空白を経て新政権を発足。タイ貢献党のセターが首相に。新政権は経済政策に注力>

タイにようやく新政権が発足した。9月5日、セター新首相が新閣僚らと国王宣誓式に出席し、就任を宣誓した。

タイでは今年5月14日の下院総選挙後に首相選びの駆け引きが長期化し、政治空白が4カ月に及んでいた。8月22日にやっとタイ国会で首相に選出されたのが、第2党であるタイ貢献党のセターだった。

宣誓式後、セターは閣僚たちと集合写真に納まり、報道陣にこう述べた。「この政権は国民のものだと約束する。ここにいる閣僚全員が国民の代表だ......われわれは国民のために休むことなく働き続ける」

セターは9月11日に国会で政策声明を発表し、翌日には閣僚会議を開く予定だ。タイ政治が新スタートを切るまでにここまで時間がかかったのは、5月の総選挙で、権力と富の中央集権化を真っ向から批判する革新的野党の前進党が勝利したことがきっかけだった。第1党となった前進党が政権を取ることに、軍が指名した上院議員たちが強硬に反発し、7月の上下両院の首相指名選挙で前進党のピター党首は指名に必要な過半数の票を得られなかった。

そこで野党大連立を模索し始めたのが、選挙で第2党となったタイ貢献党だ。同党は、親軍派中心である上院の支持を得るため前進党との協力関係から離脱し、たもとを分かつと表明。だがこれは、タイ貢献党の公約を破るものだった。タクシン元首相を精神的支柱としている同党は、2014年のクーデーターでタクシン派政権を覆した軍と結び付く勢力とは手を組まないとしていたからだ。

今回、タイ貢献党と親軍派が手を結び与党となったことは、民主化運動の中心がタイ貢献党から前進党へと移り、タイ政治が再編されていくことを意味する。また、亡命していたタクシン元首相が8月22日、15年ぶりにタイに帰国したこともこの情勢の変化を象徴していた。

親軍派と手を組み政権をつかんだことを考えれば、内閣の顔触れに過去の閣僚経験者など、おなじみの面々が加わっていることも驚きではない。親軍政党「国民国家の力党(PPRP)」からは、5人の出身者が閣僚メンバー入りした。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中貿易協議で大きな進展とベセント長官、12日に詳

ワールド

プーチン氏、15日にトルコで直接協議提案 ゼレンス

ビジネス

ECBは利下げ停止すべきとシュナーベル氏、インフレ

ビジネス

FRB、関税の影響が明確になるまで利下げにコミット
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中