最新記事
教育

欧米学生向けの闇代筆バイトに従事するケニアの若者、ChatGPTに駆逐されるか?

2023年6月5日(月)13時01分
ロイター
鉄塔と高速道路

数学の学位を身につけたランガットさん(30歳)は7年前、ケニアの中級レベルの大学を卒業した後、統計関連の仕事に就きたいと願っていた。だが、計画通りには進まなかった。ナイロビ市内で7日撮影(2023年 ロイター/Thomas Mukoya)

数学の学位を身につけたランガットさん(30歳)は7年前、ケニアの中級レベルの大学を卒業した後、統計関連の仕事に就きたいと願っていた。だが、計画通りには進まなかった。

政府機関で統計に携わったり、高校で数学を教えたりする夢を断たれたランガットさんは、全く違う「アカデミック・ライティング」の世界に飛び込む。聞こえは良いが、つまりは「不正行為の請負業」だ。

アカデミック・ライター、すなわちケニアの若い大卒者らは、主に欧米の裕福な学生に代わってエッセーを書いたり、宿題をしたり、場合によっては試験を受ける仕事を請け負っている。

この闇産業で働くケニア人の数や、その収入について信頼に足る統計は存在しない。

ランガットさんは「相手との合意によって異なるが、だいたい学生1人当たり月額200ドルないし300ドルを受け取っている。ほとんどは、看護や医療についてのエッセーの執筆だ」と語った。「2018年以来、約30人の学生を助けてきた」という。

この仕事への需要は過去10年間に膨れ上がった。ランガットさんによると、はるか昔から市場は存在したという。「関係者は秘密にしていて、何をやっていたのか具体的には語らない」という。

今年初めからAIが闇市場を侵食

ランガットさんは今、こうしたゴーストライターの仕事が人工知能(AI)に取って代わられることを恐れている。

昨年誕生した対話型AI「チャットGPT」は、ユーザーの指示に応じて記事やエッセー、ジョーク、ひいては詩まで作り出してしまう。

オンライン学習プラットフォーム、スタディ・ドット・コムが今年1月に1000人以上の学生を対象に実施した調査によると、89%以上が宿題でチャットGPTの助けを借りたことがあると答えた。試験や在宅での問題の回答にチャットGPTを利用したと認めた割合は48%、エッセーを書かせた割合は53%、論文の素案を書かせた割合は22%だった。

これら全てが、ケニアの闇産業を侵食した。

調査によると、ゴーストライターの収入は経験や仕事量などによって月4000―200万ケニア・シリング(29―1万4524ドル)と大きなばらつきがある。

ランガットさんは「今年の初め、だれもが一斉にAIを利用し始めたため、がっくり収入が減った」と話す。

日本企業
タイミーが仕掛ける「一次産業革命」とは? 農家の「攻めの経営」を後押しするスキマバイトの可能性
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EUの「ドローンの壁」構想、欧州全域に拡大へ=関係

ビジネス

ロシアの石油輸出収入、9月も減少 無人機攻撃で処理

ワールド

イスラエル軍がガザで発砲、少なくとも6人死亡

ビジネス

日銀、ETFの売却開始へ信託銀を公募 11月に入札
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 8
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中