最新記事
ウクライナ戦争

ロシア・CIA・親ウクライナ派、ノルドストリーム爆破は誰の犯行か 河東哲夫×小泉悠

THE DECISIVE SEASON AHEAD

2023年3月31日(金)17時45分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部

magSR20230331talk-2.jpg

「天王山」クリミアから爆破陰謀論、ウクライナ戦車旅団、ロシアの私兵団まで、河東氏と小泉氏(右手前)の議論は続く HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

もし本当であれば、ドイツの(オーラフ・)ショルツ首相にとっては辞任ものです。彼の政権であるときに爆破されたわけだから。辞任しないのであれば、対米関係を見直す方向に行かなければいけない。米独関係、米欧同盟、NATOの全部に関わってくる問題になる。ドイツの国内情勢も混乱します。

だからか、アメリカのほうは(ニューヨーク・タイムズが)親ウクライナ派がやったんだという情報を3月に報道した。ドイツはドイツで、小泉さんが言うように(シュピーゲル誌が)親ウクライナ派の跳ね上がりか何かが船でやった、その船を見つけたと言っている。アメリカであれドイツであれ、ハーシュ記者の情報を否定するために一生懸命情報を流しているという感じがしますね。

■小泉 その話は確かに面白いんですが、今回の戦争に関してハーシュが言っていることは極めて陰謀論的な話が多い。ノルドストリーム爆破の話も、これ単体で読むととても説得力がありますが、私はやや眉唾ものだという気がしています。

仮にアメリカが本当にやったのだとすると、露見した場合のリスクがあまりにも大きい。米欧同盟の関係性であるとか、せっかくウクライナ支援に本腰を入れ始めたドイツのショルツ政権が崩壊するとか、大きなハレーションがあるわけです。それをそこまで分かってやるアメリカなのか。

アメリカの国防大学にショーン・マクフェイトという人物がいます。元は米陸軍の軍人だったけれど、民間軍事会社に移り、その後、国防大学で教授になったという経歴の持ち主です。彼の本を読むと、汚い秘密工作とか暗殺とか、容赦ない無差別攻撃とか、要するにアメリカも「お行儀のよいこと」ばかりしていたら勝てないというんです。

おそらくこれは、戦いに勝つという点では正しい。だけど、アメリカが汚いことばかりするようになれば誰も付いてこない。彼は軍人だから戦闘に勝つことを考えるが、アメリカという国全体がモラル・ハイグラウンド(道徳的に優位な位置)に立つことに意識が向かない。

ハーシュが言うように、今回の爆破がアメリカの工作だとすると、極めてショーン・マクフェイト的です。もしも本当にそうだとすれば、結果的にそれは、暴力闘争では勝っているが全体的に負けているんじゃないか。非常に視野の狭いアメリカになってはいないかという心配を、一同盟国の国民としては思いますね。

■河東 そのとおりです。最近サウジアラビアとイランが外交関係回復で合意しましたが、アメリカはそうやって政治的にも、また(ドナルド・)トランプ以降特に顕著なのですが、モラル的にも足場を失いつつあるのかもしれない。そういうなかで(5月に)日本はG7サミットの議長をやらなければいけない。

※対談記事の抜粋第4回:注目すべき変化「ゼレンスキーが軍事に口出しし始めた」 小泉悠×河東哲夫 に続く。


小泉 悠(軍事評論家)
東京大学先端科学技術研究センター(グローバルセキュリティ・宗教分野)専任講師。著書に『ウクライナ戦争』『「帝国」ロシアの地政学』など。

河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)
外交アナリスト。ロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン「文明の万華鏡」主宰。著書に『日本がウクライナになる日』『ロシアの興亡』『遙かなる大地』(筆名・熊野洋)など。

ニューズウィーク日本版 豪ワーホリ残酷物語
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月9日号(9月2日発売)は「豪ワーホリ残酷物語」特集。円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代――オーストラリアで搾取される若者のリアル

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ

ビジネス

スウェーデン、食品の付加価値税を半減へ 景気刺激へ

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中