最新記事
ウクライナ情勢

国際関係論の基礎知識で読む「ウクライナ後」の世界秩序

THE POTENTIAL FOR CONFLICT

2023年3月3日(金)18時00分
マシュー・クレイニグ(大西洋評議会スコウクロフト国際安全保障センター副所長)

多極体制が不安定なのは、各国が複数の潜在的な敵対勢力に留意しなければならないからだ。米国防総省は現在、ヨーロッパでロシアと、インド太平洋で中国との同時衝突の可能性を懸念している。さらに、ジョー・バイデン米大統領はイランの核保有を阻止する最終手段として、武力行使の可能性は残されていると語っている。3正面作戦もあり得ない話ではない。

誤算による戦争の多くは、国家が敵を過小評価した結果だ。相手の力や戦う決意を疑って試そうとする。そのとき敵が虚勢を張れば、大きな戦争に発展しかねない。

アメリカの「相対的な」衰退

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナとの戦争は簡単に終わると判断を誤り、計算違いで侵攻した可能性がある。一部のリアリズム論者は、ロシアによるウクライナ侵攻が迫っていると、以前から警告していた。ウクライナ戦争がNATOの垣根を越えて、米ロの直接対決に発展する可能性はまだ残っている。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が、台湾をめぐって計算を間違えるという危険もある。中国が台湾に軍事侵攻した際の対応について、バイデンは台湾を守ると語り、米政府はこれを否定して「戦略的曖昧さ」を維持すると強調している。これに多くの指導者が混乱し、習も台湾を武力攻撃しても何とかなると計算違いをするかもしれない。そうなれば習を阻止するために、アメリカは暴力的に介入せざるを得なくなる。

イランの核開発については、歴代の何人もの米大統領が非難し、「あらゆる選択肢を検討している」と脅してきた結果、イランはアメリカは対応しないとみて核保有に突き進むかもしれない。イランがバイデンの決意を誤解すれば、戦争に発展する可能性もある。

さらに、現実主義者はパワーバランスの変化にも注目して、中国の台頭とアメリカの相対的な衰退を懸念している。権力移行論によれば、支配的な大国が没落して新興の挑戦者が台頭すると、しばしば戦争に発展する。この「トゥキディデスの罠」に米中が陥っているのではないかという見方もある。

中国やロシアの機能不全に至った独裁体制は、彼らが近いうちにアメリカから世界の主導権を奪う可能性を低くしている。しかし歴史をよく見れば、挑戦者は拡大する野心を阻まれたときに侵略戦争を始める。第1次大戦のドイツや第2次大戦の日本のように、ロシアは衰退を逆転するために猛攻撃をかけているのかもしれない。そして中国も、弱いからこそ危険かもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ議会、スビリデンコ氏を新首相に選出 シュ

ビジネス

米小売売上高、6月+0.6%で予想以上に回復 コア

ワールド

ガザ攻撃で22人死亡 カトリック教会も被害 伊首相

ビジネス

TSMC、第2四半期AI需要で過去最高益 関税を警
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 10
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中