最新記事
ウクライナ情勢

国際関係論の基礎知識で読む「ウクライナ後」の世界秩序

THE POTENTIAL FOR CONFLICT

2023年3月3日(金)18時00分
マシュー・クレイニグ(大西洋評議会スコウクロフト国際安全保障センター副所長)

230307p18_PTU_02.jpg

古代ギリシャの歴史家トゥキディデスは、新興国が覇権を握ろうとすると、従来の覇権国と戦争になると論じた。写真は訓練中の中国軍の特殊部隊 CFOTOーFUTURE PUBLISHING/GETTY IMAGES

まだ核抑止論が有効だという声もあるが、軍事技術はどんどん進んでいる。第4の産業革命が進むなか、人工知能(AI)をはじめ量子コンピューターや量子通信、3D印刷、ロボット工学、極超音速ミサイル、指向性エネルギーといった新技術が、世界の経済と社会、そして戦場の風景を一変させようとしている。

新技術が衝突リスクを高める

多くの専門家が、現在は新たな軍事革命の前夜だと考えている。戦車や戦闘機の進歩が、第2次大戦の勃発に影響を与えたように、現在の新技術がそれを持つ国に大きな優位を与えて、戦争を起こしやすくするというのだ。少なくとも新技術はパワーバランスの評価を難しくして、誤算のリスクを高めるだろう。

例えば、中国は極超音速ミサイルやAI兵器の一部、そして量子コンピューターの分野で世界をリードしている。その優位──あるいは自分たちは優位にあるという中国政府の誤った認識──は、台湾有事を誘発する可能性を高めるかもしれない。

より楽観的な理論であるリベラリズムさえも、今後を悲観する理由になる。確かに国際機関の設置や経済の相互依存、そして民主主義は、リベラリズム的な世界秩序の中では国家間の協力を促した。アメリカとヨーロッパ、そして東アジアの同盟国との結束もかつてないほど強まった。だが、まさにそのことが、リベラリズム的世界秩序と非リベラリズム的世界秩序の断層線を一段と危ういものにした。

例えば、現在の国際機関は新たな競争の場になっている。ロシアと中国はこれらの機関に浸透して、本来の目的とは正反対の方向に動かしている。昨年ウクライナ侵攻が始まったとき、ロシアが国連安全保障理事会の議長だったことがいい例だ。

さらに中国は、WHO(世界保健機関)における影響力を利用して、新型コロナウイルス感染症の起源を明らかにする調査を阻止してきた。多くの独裁国家は国内での人権侵害が調査されないように、こぞって国連人権理事会のメンバーになろうとしている。現代の国際機関は、協力を促進する場ではなく、対立を悪化させる場になりつつある。

リベラリズムを唱える学者は、経済的な相互依存が紛争を防ぐと言う。だがリベラリズム陣営の国々は今、ロシアと中国に経済的に依存しすぎてきたことに気付き、大急ぎでデカップリング(経済関係の断絶)を図っている。ウクライナ侵攻を受けて対ロ制裁が始まったとき、欧米企業はたちまちロシアから撤退した。

アメリカやヨーロッパ、日本では、対中貿易や投資を制限する法律が相次いで成立した。アメリカの金融機関が、アメリカ人を殺害する兵器の開発に手を貸す中国企業に投資することなど、あってはならないのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日本の経済成長率予測を上げ、段階的な日銀利上げ見込

ビジネス

今年のユーロ圏成長率予想、1.2%に上方修正 財政

ビジネス

IMF、25年の英成長見通し上方修正、インフレ予測

ビジネス

IMF、25年の世界経済見通し上方修正 米中摩擦再
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 8
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中