最新記事

ハイチ

摘発すべきはギャングとエリート──国家を食い物にしてハイチを「崩壊国家」に追い込む悪い奴らの実態

HAITI’S HOMEGROWN ILLS

2023年3月2日(木)15時02分
ロバート・マガー(政治学者)
自警団

首都では銃撃戦が頻発。自警団のメンバーは顔を隠し、アサルトライフルを携行している ENRICO DAGNINOーPARIS MATCH/GETTY IMAGES

<国民の4割が飢餓に陥る深刻な事態のハイチ。国際支援物資を横取りするギャングと結託するエリートが蝕む国家機能。そして、そのハイチから薬物を買うのは先進国...>

カリブ海の島国ハイチが、今度こそ崩壊の瀬戸際に立たされている。

1990年代に民主化されたものの、度重なる軍事クーデターや武装組織の蜂起、外国の軍事介入、大地震、経済危機、コレラ禍と、ありとあらゆる苦難に見舞われ、国連平和維持活動(PKO)が6回も展開されてきた。

それでも、今回ほど多くの危機が一度に降りかかってきたことはない。人口約1180万人の国で約470万人(うち約240万人は子供だ)が深刻な飢餓状態に陥っている上に、再びコレラが全国で流行している。

ハリケーン並みの熱帯性低気圧が襲来したり、新たな地震に見舞われたりと、自然災害も後を絶たない。

だが、国家機能が麻痺するほどの治安の悪化など、現在のハイチを苦しめている問題は基本的に人災だ。

増殖するギャングと、彼らを増長させる政治と経済の腐敗は、ハイチの窮状を計り知れないほど悪化させている。このまま放置すれば、ハイチの治安は底無しに悪化し、国全体をさらに窮地に陥れ、地域の安定さえも揺るがす恐れがある。

ハイチは、ギャングが社会にはびこってきた長い歴史がある。有力政治家や政府の役人や経済界のエリートが、批判者や邪魔者を黙らせ、選挙をゆがめ、関係者に保護を提供するためにギャングを利用してきた。

だが今、この犯罪ネットワーク(約200の武装集団がいる)は大きく拡大して、伝統的なパトロンとの関係を断ちつつある。そして従来の雇われ仕事(脅迫や恐喝)から、麻薬密売やマネーロンダリング(資金洗浄)へと犯罪活動を「多角化」している。

ハイチの最近の食料難とコレラ禍は、ギャングの増加と、それによる社会の混乱悪化と深く関係している。ギャングが自分たちの縄張りでわが物顔に振る舞うため、救援物資が届きにくくなり、燃料の供給が妨げられ、病院や学校や市場といった公共サービスの機能が麻痺している。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)が近く公表予定の評価報告書(筆者はその執筆に関わっている)は、ハイチの犯罪集団の影響力が著しく高まった理由の1つとして、強力な銃器や弾薬の流入と、資金源としての麻薬密売の拡大を挙げている。

これにはエリート層も関わっている。報告書によると、何十人もの政治家や役人が、自らの権力や影響力を強化するために贈収賄、資金洗浄、武器や麻薬密輸に関与している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:軽飛行機で中国軍艦のデータ収集、台湾企業

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中