最新記事

軍事力

「軍事力増強」日韓はどこへ

EAST ASIA ARMING UP

2023年2月17日(金)16時30分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
岸田とバイデン

日本は自らの軍事力と日米安保の強化を目指す(22年5月23日、訪日したバイデン大統領と岸田首相) EUGENE HOSHIKOーPOOL/GETTY IMAGES

<中国と北朝鮮の軍拡で日本と韓国が防衛力強化へ、アメリカの傘の下にいた両国が「自立」を目指し始めたが>

ウクライナの戦争は引き続き大々的に報道されているが、東アジアでも新たなホットスポットが生まれつつある。日本政府は防衛費を5年間で倍増する方針を決め、アメリカ製長距離巡航ミサイル「トマホーク」の導入を目指すなど、反軍事の伝統から大きく舵を切っている。韓国では大統領が、核兵器を生産できる能力に言及した。

こうした動きの背景には、中国と北朝鮮が好戦的な態度を強めていることもあるが、主な原動力はロシアのウクライナ侵攻だ。日本と韓国ではタカ派が長年、不満を募らせてきたが、ここにきて大胆な発言と積極的な政策に転じつつある。

スタンフォード大学講師で現在、日本で取材をしている東アジア研究者のダニエル・スナイダーは「ウクライナ戦争が全ての変化の枠組みになっている」と語る。「攻撃的な武力行使はまた起こり得る、自分のところでも起こり得るという考え方に関心が高まっている」

昨年12月、日本政府は9年ぶりに「国家安全保障戦略」を改定し、防衛費と関係費を合わせた安全保障関連費を5年間でGDP比1%から2%に倍増する方針も決めた。

さらに、中国や北朝鮮のミサイル発射拠点を標的にできるトマホークの購入費として、約2100億円を2023年度予算に計上。これにより、日本は初めて敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有することになる。また、沖縄に駐留する米海兵隊を改編して機動力の高い「海兵沿岸連隊」を配備する計画を、日米の閣僚協議で確認している。

日本は14年に憲法9条の「解釈を変更」して、自衛隊が同盟国の防衛に協力することを可能にした。自衛隊は約25万人の現役隊員を擁する大規模な軍隊だが、1945年の終戦以降、日本の「軍隊」が怒りに任せて発砲したことは一度もない。武器の輸出も認めていない。

国防に関して日本が新しい姿勢を示し始めたのは、安倍晋三が首相だったおよそ10年前からだ。拡大する中国と北朝鮮の脅威を抑止して、必要になれば対抗しなければならないという認識が徐々に高まっていた。

ロシアがウクライナ侵攻に向けて国境付近の兵力を増強するなか、21年10月に就任した岸田文雄首相の下でこうした変化が加速し、政策として固まりつつある。岸田は今年1月に訪米してジョー・バイデン米大統領と会談した際も、日本の安全保障戦略の転換を強調した。

アメリカは守ってくれるのか

新しい国家安全保障戦略で日本は、「ロシアによるウクライナ侵略により、国際秩序を形作るルールの根幹がいとも簡単に破られた」と非難。「同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない」とする。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

G7首脳、重要鉱物供給保護戦略で暫定合意=声明草案

ワールド

イラン、湾岸3カ国通してトランプ氏に停戦仲介要請=

ワールド

ロ・トルコ首脳、イスラエルのイラン攻撃を非難 即時

ワールド

米ロ外交協議中止、米国決定とロシア報道官 関係改善
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中