最新記事

国際政治

ウクライナ戦争を二元論で語る「自由世界」にいる、自由ではない人々

WHO IS PART OF THE FREE WORLD?

2023年2月6日(月)09時44分
アンマリー・スローター(元米国務省政策企画本部長)
バイデン大統領

バイデンは「自由世界」の旗振り役を自任しているが…… EVELYN HOCKSTEINーREUTERS

<2月7日、バイデンは一般教書演説で「自由世界」はプーチンの責任を追及してきたと声高に述べるだろう。しかし、どちらの立場も拒否する国々も多い。従来の「自由世界」を再定義すべきとき>

去年の一般教書演説で、バイデン米大統領はその6日前にウクライナ侵攻を開始したロシアのプーチン大統領をこう批判した。彼は「自由世界の根幹を揺るがそうとしている」と。

2月7日に予定される一般教書演説で、バイデンはこの1年、「自由世界」はウクライナを支援しプーチンの責任を追及し続けてきたと声高に述べるだろう。しかし、「自由世界」とは一体何を意味するのか。

「非自由世界」との境界線はどれだけ明確に引けるものなのか。そして、ロシアに対抗しウクライナを支援するか否かでどちらの世界に属するかを決めることは、公平なリトマス試験であると言えるのだろうか。ある意味、ウクライナは間違いなく非自由世界と境界を分かつ自由世界側の最前線にある。

ロシアの行動は自由に対する露骨な攻撃だ。ウクライナという独立国家を征服し、領土を併合し、彼らの国家としてのアイデンティティーを失わせるというロシアの最終目標は、まさに自由を否定する行為である。そうしたロシアに抵抗することで、ウクライナ人は自分たちの自由を守ろうとしている。

しかし、自由が奪われる状況とは独裁や征服だけを指すわけではない。ノーベル経済学賞を受賞したインドの経済学者アマルティア・センは一昨年の回顧録で、1944年にイスラム教徒の日雇い労働者が仕事からの帰り道でヒンドゥー教徒の暴徒に襲われ死亡したことに言及している。

労働者はこの仕事が危険だと分かってはいたが、経済的な理由からほかに取れる選択肢がなかった。センは書く。

「貧困は人々から全ての自由を奪うところにまで及んでいるのだと気付かされた。殺される可能性が非常に高いと分かっていながら、その選択肢を回避する自由さえ奪ってしまうところにまで」

センは政治的自由や経済的資源、社会的機会、透明性の確保、身の安全という全ての自由があってこそ、人々が願う生活を送るための「ケイパビリティー(潜在能力)」を高められるのだと説いた。

この意味では、バイデンの言う「自由世界」の先進的な民主主義諸国にも自由ではない人々が大勢いる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット

ビジネス

豪当局、証取ASXへの調査拡大 安定運営に懸念
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中