裁判所まである!中国の非合法「海外警察署」の実態を暴く

XI’S POLICE STATE–IN THE U.S.

2023年1月28日(土)16時20分
ディディ・キルステン・タトロウ(本誌米国版・国際問題担当)

230131p18_CKM_02.jpg

ニューヨークで行われた中国の「ゼロコロナ」政策への抗議デモ JEENAH MOON-REUTERS

ショーンによれば、「デモ隊の仲間のふりをするのは彼らの常套手段」だ。「証拠はないが」と彼女は言う。

「個人的には、中国共産党とつながりのある人物だと思う」

著名な反体制活動家の魏京生(ウエイ・チンション)は昨年5月のある晩、首都ワシントンで車を運転していたとき、故意と思われる交通事故に遭った。前の車が急ブレーキをかけたので自分もブレーキを踏んだところ、後ろの車が猛スピードで突っ込んできたという。

「後ろの車はすぐにバックして逃げた。次いで前の車も姿を消した」

魏は電子メールでそう証言した。

この場合、意図的に衝突したのか否かは不明だ。それでもFBIはこの事故の以前に、中国の工作員と思われる人物が反体制派を標的とした衝突事故の偽装工作をほのめかした電話をキャッチしている。

狙われたのは、ニューヨークから連邦下院議員選への立候補を目指していた牧師で、元米軍兵の熊焱(ション・イエン)。

一昨年の12月、かつて中国国家安全部に属していたリン・チーミンなる人物が、米国内で計画実行のために雇ったと思われる私立探偵に向かって、「交通事故なら(彼は)木っ端みじんだな」と言って笑うのをFBIは録音していた。

中国共産党を批判する人が命を奪われた例もある。昨年の3月14日、ニューヨークの弁護士・李進進(リー・ジンジン、66)がクイーンズ区フラッシングの事務所で殺害された。

李は天安門事件で投獄されたこともある活動家だ。中国側の関与を示す証拠はないが、中国政府系メディアの中華網には「祖国の裏切り者、また1人米国で死亡」という見出しが躍った。

現行犯で逮捕された張暁寧(チャン・シアオニン)は、犯行の約半年前に学生ビザで渡米していた。彼女は血まみれの姿で刃物2本を手に、瀕死の李を見下ろしていたという。

市警109分署から移送される際には、集まっていた中国系アメリカ人たちに向かって「裏切り者!」と叫んでいた。

匿名を条件に本誌の取材に応じた友人たちによると、李とその父親は中国の治安当局で働いていたが、李自身は中国出身者の亡命を助ける活動に転じ、中国の「国境を越えた弾圧」に対抗するため、アメリカの司法当局に協力していたという。

「彼は自分の知識を用いてアメリカ政府に協力し、共産党に対抗していた。でも中国では、組織を裏切った者には必ず高い代償を払わせる」

そう語った李の友人は、報復を恐れて氏名を明かさなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中