【解説】最新の研究で解明進む、ネアンデルタール人の新事実──そして我々のこと

WHAT MAKES US HUMAN

2023年1月19日(木)13時00分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

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トロント大学のビオラ COURTESY OF BENCE VIOLA

もしネアンデルタール人が私たちの代わりに生き残っていたら、彼らも現生人類と同レベルの発展を成し遂げたのか――その可能性については、ビオラも否定していない。近年、ネアンデルタール人の遺跡から最も人類らしい特徴、つまり複雑な象徴的思考能力と象徴を用いた初歩的なコミュニケーションの萌芽を示唆する考古学的証拠が見つかっているのだ。

10年にはスペイン南東部で調査を行った考古学者のチームが、約5万年前(現生人類が到達する1万年前だ)の2つの洞窟で発見されたザルガイとホタテガイの貝殻に人工的に開けたと思われる穴と、装飾用の赤い顔料の跡を確認したと発表した。ネアンデルタール人が彩色した貝殻をひもでつなぎ、装飾品として身に着けていた可能性を示唆する発見だ。顔料が交じったワシの爪も見つかっている。さらに彼らは羽毛の装飾を身に着けていたとする説もある。

一部の遺物や骨、少なくとも1つの石には粗い斑点や線、彫刻の痕跡があった。英ダラム大学のポール・ペティット教授(旧石器時代考古学)は、明らかに塗料として使われた赤い顔料の斑点が25万年前のネアンデルタール人の居住地で見つかったと語る。控えめに見ても、ネアンデルタール人が非言語的コミュニケーションの初歩を理解し、ことによると象徴的思考や想像力を駆使していた可能性を示すものだという。

「20年ほど前から、彼らが自分の体を飾り立てていた事実が認められるようになった。この点については議論の余地はほぼなくなっている」

注目に値するのは、この顔料が原始的な洞窟美術にも使われていたことだ。ペティットらは18年、スペインの3つの洞窟で見つかった赤い顔料の奇妙な「壁画」を分析した。複数の点と線、長方形、数十の手形からなるこの壁画は、壁に手を当て、その上から口に含んだ顔料を吹き付けて作ったとみられるという。

3つの洞窟で見つかった遺物の年代測定から、その一部は現生人類が到達するずっと前の6万5000年前のものと推定された。ある専門家は「人類進化の分野における画期的大発見」と評し、ネイチャー誌にこう語った。「人類史の根本的な見直しを迫るものだ。現生人類とネアンデルタール人の行動の違いはほんのわずかしかなかったことになる」

「これらの洞窟で少なくとも彼らはメッセージを(描く対象を)体から外部の媒体である洞窟の壁へと広げるために、顔料を使い始めたようだ」と、ペティットは語った。

「これは認知的に非常に重要な分かれ道だった可能性があると思う。その場で相手と面と向かってやりとりするのではなく、壁に永続的に残すことでメッセージを時空を超えて伝える可能性を手にしたのだ」

これに洞窟の奥深く(そんなところを探検する理由など、好奇心以外に考えにくい)で命を落としたネアンデルタール人がいた証拠を併せて考えると、新たな可能性が見えてくると彼は言う。

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