最新記事

東南アジア

玉ネギ高騰のフィリピン、食料安全保障でも中国に首を差し出すか

2023年1月18日(水)20時00分
大塚智彦
山なりに積まれた玉ねぎ

かつてはマニラの市場に過積載された玉ねぎが運ばれる姿が見られたが…… Romeo Ranoco / REUTERS

<自ら農業大臣を兼務するマルコスだが、困ったときには中国に依存>

ウクライナ戦争の影響を受けて昨年から世界的な物価高となっている。フィリピンでも食料品、特に農産物の値上げが続いているが、なかでも玉ネギは史上最高の価格となり、労働者の最低賃金を上回るなど異常な高騰となっている。原因には玉ネギの生産地が相次ぐ大規模台風の打撃を受けて収穫が大幅に減少したことが背景にあるとみられている。

フィリピン料理で多用される玉ネギ(赤玉ネギ、白玉ネギ)の高騰は一般市民の台所や飲食業界を直撃しており、玉ネギを販売するスーパーなどの商店や八百屋には少しでも安い玉ネギを購入しようとする市民の長蛇の列ができている。

一方では玉ネギを中心とする野菜などの農産物の不足を反映して外国から密輸するケースも出始め、税関当局は監視、摘発を強化している。

マルコス大統領は自ら農業大臣を兼務するなど農産物の自給には強い関心をもっている。そのため今回の税関が押収した玉ネギや白ネギなどを野菜不足解消の対処策の一環として市場で販売する可能性を探っているとされ、野菜不足による価格高騰が極めて深刻な問題であることを裏付けている。

鶏肉、最低賃金より高価な玉ネギ

フィリピンの赤玉ネギは2021年で平均1キログラム90〜120ペソ(約210〜280円)だったが、2022年10月頃にはそれが120〜170ペソ(約400円)に上昇した。そして2022年末から2023年の年始にかけて600ペソ(約1400円)にまで跳ね上がり高騰しているのだ。

この600ペソという価格は鶏肉1キログラムの220ベソ(約510円)よりはるかに高く、豚肉や牛肉よりも25%から50%割高の値段だという。

さらにマニラ首都圏で働く非農業従事者1日の最低賃金570ペソ(約1330円、2022年6月基準)よりも高額になってしまい、おそらく世界で最も値が張る玉ネギになっている可能性があると地元紙などは伝えて危機感を表している。

野菜類の緊急輸入で価格抑制へ

こうした事態にフィリピン農務省は国内の供給の減少を食い止め、価格上昇の動きを抑制するため3月までに2万2000トンの玉ネギを含めた野菜類の輸入が必要になると試算している。

現地の報道などでは1月末までに約2万1000トンの野菜類が輸入されるというが、フィリピンは毎月約2万トンの野菜を全国で消費しているとされ、不足や価格高騰が解消されるかどうか効果を疑問視する声も出ている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

各国の新気候計画、世界の温室効果ガス排出が減少に転

ビジネス

三菱重やソフトバンクG、日米間の投資に関心表明 両

ワールド

日中外相が電話会談、ハイレベル交流は関係発展に重要

ビジネス

野村HD、7―9月期純利益921億円 株式関連が過
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 8
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 9
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中