最新記事

サイエンス

「世界一鮮やかな色!?」......生物をヒントに塗料では不可能な鮮やかな色が開発された

2023年1月6日(金)18時35分
青葉やまと

豊かな色彩、自ら作ったアート作品で証明

パーカー氏は科学者であると同時に、アーティストでもある。米CNNは2021年の時点ですでに、アート分野で構造色を活用する氏の活動を報じている。ロンドンのキュー王立植物園では同年9月まで、『Naturally Brilliant Colour(ありのままに鮮やかな色)』展が開催された。

漆黒の壁で囲まれた会場に足を踏み入れると、そこにはパーカー氏が開発したピュア構造色を用いた色彩豊かなアート作品が展示されている。蝶の羽や花びらなどを再現した鮮やかなオブジェや、ビッグバンに着想を得た絵画作品などを鑑賞できる。

いずれも鑑賞者の視線と物体表面との角度に応じて、トーンが繊細に変化してゆく。ひとつの作品であっても、中央部から縁に移るにつれ視線の角度が異なることから、なだらかなグラデーションを描くように色相が変化し、異なる表情を見せる。

CNNはピュア構造色の謳い文句を引用し、「地球上で最も目立ち、輝く色」だと紹介している。記事に添えられた写真からも、鮮やかな発色がありありと感じられる。実物を両眼視した場合には視差が生じ、さらに複雑な色味の融合を感じられることだろう。

>>■■【動画】鮮やか! 「永遠の色」の展覧会

健康や環境対策でも利点

パーカー氏はピュア構造色が、健康問題や環境問題の観点においても有効な切り札となると考えている。市販の顔料には、人体に有害な溶剤や樹脂などが添加されているものも少なくない。乾燥に伴いベンゼンやホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物を放出するほか、マイクロプラスチックの発生源ともなる。

一方、パーカー氏によるとピュア構造色は、地殻や石英の成分などとして自然界に存在する二酸化ケイ素などから作られる。さらに、従来の塗膜にあたる発色構造の層を非常に薄くできることから、採用する製品の最終重量を軽量化できるという。

たとえばジャンボジェットの外装の塗装として実用化できれば、重量の1トン削減が見込まれ、CO2排出量を削減することが可能だという。スミソニアン誌によると、顔料にナノ構造の薄片を混ぜ込む方法がすでに発見されており、欧州の航空会社から氏のもとに打診が来ている。

CNNは、芸術と科学の分野はときに対極のように感じられることもあると指摘しながらも、ピュア構造色は「両分野の相互作用が、双方にとって革命を引き起こす可能性があることを物語っている」と述べている。

科学者として開発に携わり、同時にアーティストとしてその価値を理解するパーカー氏だからこそ、困難な開発を20年以上も継続できたのかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の

ビジネス

アマゾン、豪データセンターに5年間で130億ドル投

ワールド

イラン世界最大級ガス田で一部生産停止、イスラエル攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中