最新記事

環境問題

ポルトガルの事例が示した、80年後の世界の山火事と環境破壊の教訓とは?

A Harbinger of the Future

2022年12月26日(月)16時11分
パンドラ・デワン
山火事

巨大化した山火事はもはや人間の手には負えない(写真は今年9月のカリフォルニア州南部) LUIS SINCOーLOS ANGELES TIMES/GETTY IMAGES

<猛烈な山火事からの復興を目指すポルトガルの人々を描いた、ディカプリオ製作参加のドキュメンタリー『悪魔の息吹』。気候変動がもたらす地獄と温暖化との向き合い方とは>

記録破りの猛暑が2年続いたから、今は誰もが気候の危機を肌で感じている。アメリカだけでも、2015年以降に20万平方キロ以上の森林が山火事で失われた。

国連環境計画(UNEP)によれば、2100年までに猛烈な山火事の発生件数が世界全体で5割も増えるという。気温が上がり、強い日照りで乾燥が進むせいだ。

山火事は木も人も殺す。米MSNBCで11月に放映されたドキュメンタリー『悪魔の息吹(From Devilʼs Breath)』を見れば分かる(米ピーコックで配信中)。製作陣にレオナルド・ディカプリオやハリ・グレース、クロエ・リーランドが名を連ね、オーランド・ボン・アインシーデルが監督した本作は、ヨーロッパ史上最大級の山火事に遭いながらも、自然の回復力を信じて懸命に立ち上がろうとするポルトガルの人々の姿を描いている。

記録的な暑さが続いた2017年の6月17日、ポルトガルの田舎町ペドローガン・グランデで4つの山火事が発生した。死者66人、負傷者253人を出す大惨事となり、ポルトガル史上最悪の山火事とされる(この年には同国全土で山火事が起き、5000平方キロ近い土地が焼けた)。

「すさまじい惨状だったに違いない」と、監督のボン・アインシーデルは本誌に語った。「あれから何年もたつのに、まだあちこちに地獄の業火の痕跡が残っていた」

撮影班は地域住民の姿にも驚いた。「みんな意気消沈しているだろうと思っていたが、違った」と、監督は言う。「仲間の死を無駄にすまいと、みんなが支え合ってこの集団トラウマを癒やし、二度と同じ悲劇が起こらないよう懸命に努力していた」

気候変動の専門家として制作に関わったトム・クラウザーも、人々の回復力に感銘を受けた。「希望がみなぎっていた」と、クラウザーは言う。「とにかく自分たちの町の自然を回復させよう。そうすれば少しは、世界中で生物多様性の喪失や気候変動と闘う人々の役に立てる。みんな、そう考えていた」

火が広がったのは、オーストラリア原産のユーカリの木が多かったせいだと考えられている。ユーカリは成長が速いが、燃えやすい。

そこで地域住民は、焦土と化した土地に在来種のコルクガシやオークを新しく植えることにした。これらの木は周囲の空気や土壌を冷やし、土中の水分を保持することが知られている。昔ながらの多様な生態系に戻せば、森は火災に強くなり、人間の居住地を守る壁にもなり得るのだ。

「ぺドローガン・グランデの近くには古い森があり、周囲のユーカリ林が燃えたときも、そこだけは延焼を免れた」と、ボン・アインシーデルは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1万件減の21.4万件 継

ワールド

EU・仏・独が米を非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ビジネス

中国人民銀、為替の安定と緩和的金融政策の維持を強調

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中