最新記事

インドネシア

「同性愛では繁殖せず人類は滅亡する」 イスラム保守派の反対で米LGBTQ特使の訪問キャンセルに

2022年12月3日(土)19時00分
大塚智彦
デモをするLGBTQ支持者たち

同性愛者は公開でむち打ち刑に処されるインドネシア・アチェ州のLGBTQ支持者によるデモ Antara Foto Agency - REUTERS

<世界最多のイスラム教徒を擁する国は、LGBTQの権利問題を協議する特使を門前払い>

在インドネシアの米大使館は12月2日、性的マイノリティであるLGBTQの権利などについて協議する米国の特使ジェシカ・スターンさんのジャカルタ訪問日程がキャンセルされたことを明らかにした。

スターン特使は11月28日にフィリピンを訪問し政府関係者や民間の人権団体などとLGBTQの人々に関する権利擁護などについて意見を交換。その後ベトナムを訪問し12月7日にインドネシアを訪れて関係者と同様の協議を行う予定だった。

ところが12月1日にインドネシアで最も権威があるとされる「インドネシア・ウラマ(イスラム教指導者)協会(MUI)」がスターン特使のインドネシア訪問に反対を表明。これを受けて事態が急転、このままでは特使の訪問中に不測の事態発生もありうるとの判断から米側が訪問キャンセルを判断したものとみられている。

同性愛は繁殖せず人類は滅亡する

MUIはスターン特使のインドネシア訪問に関して「私たちの国の文化的及び宗教的価値観を損なうことを計画している」と批判。断固受け入れられないとの立場を表明した。

MUIは複数あるインドネシアのイスラム教団体で最も権威のある組織とされ、現職のマアルフ・アミン副大統領はMUI議長経験者でもあり、誰も異論を唱えることが難しいという状況がある。

MUIのアンワル・アッバス副議長はメディアに対して「同性愛行為は危険である」としたうえで「この行動が容認されれば男性と男性、女性と女性との結婚となり、それは繁殖することがない。ひいては人類の滅亡に繋がる可能性がある」とまで述べて同性愛、LGBTQに反対の立場を強調した。

日本でも自民党議員の女性政務官が「LGBTは生産性がない」と発言し、謝罪と発言撤回に追い込まれているが、インドネシアではそうした批判は全く起きていないのが現状だ。

非イスラム教国だがイスラム強国

インドネシアは世界第4位の人口約2億6000万人のうち約88%がイスラム教徒である。世界最多のイスラム教徒人口を擁する国だが、イスラム教を国教とするいわゆるイスラム教国とは一線を画し、イスラム教以外にキリスト教、ヒンズー教、仏教、儒教の信仰も憲法で保障されている「多様性国家」である。

しかし実際には圧倒的多数を占めるイスラム教の教義、規範、習慣などが政治、経済、社会、文化のあらゆる側面で優先され、それへの異論や反論そして議論すら、ときには暴力を以って封じ込められるのが実態である。

スマトラ島最北部のアチェ州だけは例外的にイスラム法の適用が容認され、同性愛者は公開でむち打ち刑に処される。また外国人を含め女性は頭部を覆うヒジャブの着用が求められる特別な地域である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ石油「封鎖」に当面注力 地上攻撃の可

ビジネス

午前の日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 値幅1

ビジネス

米当局が欠陥調査、テスラ「モデル3」の緊急ドアロッ

ワールド

米東部4州の知事、洋上風力発電事業停止の撤回求める
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中