最新記事

ヘルス

排泄やおならの音で病気を診断する「AIトイレ」が、感染症予防の未来を拓く

The Amazing AI Toilet

2022年12月22日(木)17時32分
ウルジャ・カルヤニ(科学ライター)
トイレ(イメージ画像)

トイレなら体への負担もない RASULOVS/ISTOCK

<排泄時の音を人工知能で解析し、症状の早期発見に寄与。将来は感染症を遠隔診断して感染拡大を防止できるかもしれない>

自分以外には聞かれたくないおならや排泄の音だが、公衆衛生に役立つとなれば別だろうか。それらを分析し、病気発見につなげる機械を米ジョージア工科大学の科学者たちが発明した。

合成ヒト音響再現試験装置(SHART)という名で、ポンプやノズル、チューブが付いており、人体の物理現象や音が再現・分析できるものだ。製作者らは、2022年11月に行われた全米物理学会の流動力学部門年会でこの装置について発表した(ただし、査読付き学術誌にまだ掲載されていない)。

研究者たちは、排泄の音を検知して精査できるよう人工知能(AI)を訓練した。いつの日か、コレラのような致死率の高い感染症の診断に役立て、潜在的なアウトブレイク(感染症の爆発的拡大)を未然に防ぐようにするためだ。

「ハイチではコレラが再び流行している」と、ジョージア工科大学研究所の航空宇宙エンジニアであるマイア・ガトリンは、全米物理学会での発表時に述べ、患者をより迅速に見つけ出すことは、こうした流行を抑制するのに役立つ、と言い添えた。

彼らはデータを収集し解析を行うAIモデルに比較的安価なセンサーを組み合わせ、感染リスクの高い地域で使用したいと考えている。「AI付きトイレが下痢の流行を教えてくれれば、その地域の状況をすぐに診断できる」

腸を遠隔で診断する上で、音を使えば体に負担をかけない。「自己診断はあまり当てにならない」と、同大学のデービッド・アンカレは言う。「『尿の出る速度が本来と異なるから、検査を受けたほうがいい』と患者に知らせる非侵襲的な方法を見つけたい」

健康、不健康を問わずさまざまな排泄の音と映像、周波数帯をAIに学習させ、そのAIをSHARTでのテストに使用。初期データでは、AIは98%の精度で排泄の種類を正しく識別できた。

アンカレらは、この機械を誰もが入手しやすい安価なものにしたいと考えている。「このプロジェクトは医療制度が脆弱な都市部に焦点を当てている。手頃な価格であることがとても重要だ」

ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州、ウクライナ和平巡る協議継続 15日にベルリン

ビジネス

ECB、成長見通し引き上げの可能性 貿易摩擦に耐性

ワールド

英独仏首脳がトランプ氏と電話会談、ウクライナ和平案

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 「経済は米関税にも耐性示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲う「最強クラス」サイクロン、被害の実態とは?
  • 4
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 5
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中