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現金3400万円残し孤独死した右手に指のない女 40年住んだ町で住民登録がない謎すぎるその正体は...

2022年12月22日(木)11時45分
武田惇志(共同通信社記者)、 伊藤亜衣(共同通信社記者) *PRESIDENT Onlineからの転載

発見のきっかけは溜まった郵便物

ベビーベッドの上に置かれた犬とロバのぬいぐるみ

遺体発見後の部屋の様子。ベビーベッドの上に犬とロバのぬいぐるみが見える(出所=『ある行旅死亡人の物語』)

遺体の発見状況はどうだったのだろうか。尼崎東警察署は以下のように説明している。

「いつもすぐに郵便物を取り込んでいるのに、ここ2、3日、変死人の郵便受けに郵便物が溜まっていることを心配した住人からの連絡を受け、家主が仲介不動産業者に連絡。玄関ドアに施錠があったことから、変死人宅に声掛けするも応答がなく、当署に通報があり、警察官立会の下、家主が管理する玄関鍵で解錠し、更に内鍵がされていたことから救急隊が損壊し、屋内を確認したところ、玄関先において左横臥に倒れ絶命する変死人を発見した」

女性は運良く、亡くなってから割合早い時期に発見されたとみるべきだろう。もし住人が気づかなかった場合、大家が家賃を催促するまで発見されずに、遺体の腐敗が進行した可能性がある。

なお、発見時の身長は約133センチメートルで中肉、年齢は75歳くらいで、右手指すべて欠損(労災によるもの)とされていた。着ていたのは緑色の長袖トレーナーとステテコショーツ。身長などは官報に記載された情報と同じだ。やはり、妙に小さいのが気にかかる。年齢に関しては「75歳くらい」とピンポイントで特定されているのが不思議だったが、これは遺品中の年金手帳を見ることで理由がわかった。

手帳は表紙がオレンジ色で、かつて厚生労働省に存在した社会保険庁が発行したものだ(同庁は廃止され、現在は日本年金機構が引き継いでいる)。「平成元年(1989年)2月1日」に保険者となったとあり、そこでの彼女の氏名は「田中千津子」、生年月日は「昭和20年(1945年)9月17日」とされている。2020年4月段階で、年齢は74歳となる。

住民登録なし、闇の歯医者、23歳まで広島...

資料中の警察や市職員の証言などから、警察が懸命に調査したものの、身元の特定には至らなかったことも見えてきた。整理すると、以下の6点が主な調査とその結果だったようだ。

・家主や近隣への調査では身元を特定できなかった。
・女性(「田中千津子」さん)も夫とみられる男性(「田中竜次(仮名)」さん)も住民登録はされていなかった。
・年金手帳については年金をかけていた期間が短く、かつ年金をかけていたときに勤務していた製缶工場もすでに存在していないため、身元の特定はできなかった。
・預金通帳や銀行についても調査したが、身元は特定できなかった。銀行が本人確認に使うはずの資料もなかった。
・女性は歯の治療をしており、主治医である大阪の歯医者を探し当てたが、いわば白タクのような闇の歯医者で、記録はなかった。
・製缶工場での労災事故時に治療を受けた病院のカルテに「23歳まで広島にいた、姉妹は3人」と話していたという記述もあったので、広島県や広島市にも照会してみたが、身元特定に至る情報は得られなかった。

最初の周辺調査を除けば、私たちがどうあがいてもできない調査を、警察はすでにやってのけていたわけである。

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