最新記事

食料危機

コロナ禍、ウクライナ侵攻、気候変動で急増するアフリカの飢餓人口。WFP・JICA専門家が考える、これからの食料安全保障

2022年10月4日(火)18時40分
※JICAトピックスより転載
国連世界食糧計画(WFP)

コロナ禍の貧困対策として、津村さん(中央)はガンビアの政府関係者と緊急食料支援について協議した

<世界の中でも深刻な食糧危機に直面している西アフリカ。これからの支援と協力のあり方とは? 国連WFPで14年間アフリカを支援してきた津村康博氏と、天目石慎二郎・JICA 経済開発部次長が語り合った>

異常気象、新型コロナウイルス、ウクライナ侵攻。地球規模の大問題が立て続けに起きている今、世界で飢餓人口が急増しています。なかでも深刻な食料危機に直面しているのが西アフリカです。さまざまな要因で深刻さを増す、西アフリカの食料危機の現状とは。そして問題の解決に向け、これから取り組むべきこととは。アフリカで長年食料支援活動を続けている国連世界食糧計画(WFP)ガンビア事務所長の津村康博さんと、JICAで農業・農村開発を担当する経済開発部次長の天目石慎二郎さんが意見を交わします。日本にも食料価格高騰の影響が及んでいます。食料危機は、決して遠い国の話ではないのです。

jicatopics20221004foodsecurity-2.jpg

飢餓人口は過去最悪のレベルで増加している

――新型コロナウイルスの蔓延に加え、ロシアによるウクライナ侵攻が続いています。この影響を受け、世界中で深刻な食料危機に直面し、飢餓に苦しむ人々が増加しています。現在の状況をどのように受け止めていらっしゃいますか?

国連WFPガンビア事務所長、津村康博さん(以下、津村さん):国連WFPの発表によると、生命や生活に差し迫った危険を及ぼし、緊急の支援が必要とされる深刻な飢餓(急性食料不安)に苦しむ人々の数は、2022年、世界82カ国で3億4500万人に達します。新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年と比べて、約2億人の増加です。この増加率はかつてない最悪の数字です。まず、コロナ禍の移動制限や国境封鎖により物流が大きな打撃を受けた影響が大きかった。そしてようやくコロナが少し収まったかと思ったときに、ロシアによるウクライナ侵攻です。食料の供給事情は悪化し続けており、世界中を巻き込む食料危機の状況が長く続くのではないかと懸念しています。

jicatopics20221004foodsecurity-3.jpg

津村康博(つむら・やすひろ):国連WFPガンビア事務所長。民間企業・団体を経て、1998年より国連世界食糧計画に勤務。ローマ本部で政策調整や給食事業、日本事務所で対政府連携を担当するほか、コソボ、ケニア、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、在セネガル西アフリカ地域統括事務所、モーリタニア、シエラレオネ、そして現在はガンビアで、食料支援に取り組む。本対談にはガンビアからオンラインで参加

jicatopics20221004foodsecurity-4.jpg

国連WFPより

JICA経済開発部次長、天目石慎二郎さん(以下、天目石さん):私たちも大変厳しい状況だと重く受け止めています。JICAは発展途上国の持続的な開発に向け、飢餓の撲滅や農業開発、栄養改善といった分野での取り組みを長年進めてきました。2000年頃から低栄養人口の割合は徐々に低下してきましたが、残念ながら2014年頃から、経済情勢や異常気象、政情不安などによって、特にアフリカを中心にその割合が上昇に転じました。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が大きな打撃を加えました。さらに、国連WFPでも指摘されているように、昨年の飢餓の要因に紛争が挙げられます。アフリカは複合的なリスクに直面し、難しい状況だと認識しています。

jicatopics20221004foodsecurity-5.jpg

天目石慎二郎(あまめいし・しんじろう):JICA経済開発部(農業・農村開発第二グループ)次長。1994年JICA入構。ラオス専門家、FAOアジア太平洋地域事務所(長期研修)、JICAタンザニア事務所を経て、2016年~2020年はJICAケニア事務所で農業関連事業などを担当。現在は、主にアフリカ及び中東欧州地域の農業開発に携わる

――世界でも特に食料危機が深刻な問題となっている西アフリカの現状やその要因について、教えて下さい

津村さん:西アフリカでは、気候変動で天候不順が悪化しており、干ばつや洪水が頻発し、食料の確保が難しくなっています。慢性的な貧困がある上にガバナンスが脆弱な国が多いため、食料価格が上がるとすぐにデモが発生し、政情不安を引き起こします。軍事クーデター(未遂も含め)も数か国で発生しています。また、気候変動による天候不順で水や牧草などの自然資源が少なくなると、争いが起こり、住んでいる場所を追われ、移民が不安定要因になると、また別の場所で紛争が起こります。天候不順や、不安定な経済や政情不安、紛争といったさまざまな要因はつながっており、食料危機もそこに大きく関係しているのです。ちなみにガンビアでは現在、過去35年で一番の豪雨により洪水が各地で起こっており、被災者に緊急食料支援を行っています。

また、西アフリカは農業生産に必要な肥料の多くをロシアやウクライナからの輸入に依存しています。今年は必要量の4割を確保できておらず、次の収穫量がさらに大きく下がる恐れがあります。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マツダ、関税打撃で4━9月期452億円の最終赤字 

ビジネス

ドイツ輸出、9月は予想以上に増加 対米輸出が6カ月

ワールド

中国10月輸出、予想に反して-1.1% 関税重しで

ビジネス

FRB、近くバランスシート拡大も 流動性対応で=N
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中