アメリカも警戒する、イスラエル人技術者への中国からのスカウトメールとは?

BEIJING’S BIG BET

2022年10月28日(金)12時56分
ディディ・キルステン・タトロブ(ドイツ外交政策評議会元研究員)
習近平

PHOTO-ILLUSTRATION BY RYAN OLBRYSH; SOURCE PHOTOS BY GETTY

<過去20年、ハイテク部門にターゲットを絞った投資と買収を進める中国。言い寄られたら無視できないイスラエル。放置すれば、半導体、ドローン、AIなど防衛・安全保障技術も筒抜けになる危険性が>

中国に来て働きませんか、すごい報酬を用意してます──自分がSNSにアップした文章に、こんなおいしい反応があったら、あなたならどうする? テルアビブ(イスラエル)在住のある政治アナリストは「無視した」と本誌に語った。怪しい、と直感したからだ。

それは中国の技術コンサル「浙江火炬中心」からのメッセージで、詐欺でもジョークでもない本気の勧誘だった。しかもそれは優秀な人材と先端技術を国内に移転するという国策で、全ては習近平(シー・チンピン)国家主席の掲げる「中国の夢」(建国100周年に当たる2049年までに偉大な「復興」を成し遂げるという目標)の実現に向けた努力の一環だった。

中国版ツイッターの「微信」で連絡してきた「ケイシー・シェイ」と名乗る「国際採用担当者」は、過去に勧誘に応じた外国人技術者の例を挙げていた。

例えば「GBR(イギリス)004」は電磁波や量子物理学、それにトンネル内や密林でも使える無線通信の専門家、「NZL(ニュージーランド)002」は宇宙・防衛産業に欠かせないナノ素材の専門家、「IND(インド)004」は高性能半導体のプロといった具合だ。このイスラエル人政治アナリストも、応募すれば「ISR007」とかになっていた可能性がある。

浙江火炬中心はまた、自分たちは「863計画」の一部門を担当しているとアピールしていた。863計画は最先端の科学技術を軍事面に応用する国家プロジェクト。ならば浙江火炬中心も同様な組織と考えられる。担当者のシェイはご丁寧に、自分たちは「中央政府にサポートされた」省政府の公式プロジェクトだとも書いていた。

世界的テック企業の生産地

結果として、このイスラエル人アナリストは誘いに乗らなかったが、以前にも、中国側から似たような誘いがあったという。

今の中国は科学技術分野で優秀な人材を世界中からかき集めようとしているし、今のイスラエルはレーザー光学から拡張・仮想現実までの先端技術で世界をリードする新興企業を4000社ほど擁し、技術革新のハブとなっている。

米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、イスラエルはGDPの約5%を研究開発費に投じている。またイスラエルには防衛・安全保障面の高度な技術が蓄積されているが、そうした知的財産の流出を防ぐ仕組みは今なお脆弱だ。実際、過去20年で見ても中国の対イスラエル投資の多くが先端技術分野に集中している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ、6月の英販売台数は前年比12%増=調査

ワールド

豪家計支出、5月は前月比+0.9% 消費回復

ワールド

常に必要な連絡体制を保持し協議進める=参院選中の日

ワールド

中国、太平洋島しょ地域で基地建設望まず 在フィジー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中