アメリカも警戒する、イスラエル人技術者への中国からのスカウトメールとは?

BEIJING’S BIG BET

2022年10月28日(金)12時56分
ディディ・キルステン・タトロブ(ドイツ外交政策評議会元研究員)

220830p18_CNA_03.jpg

21年に創立100年を迎えた中国共産党は近代的な社会主義強国構築のため技術覇権をもくろんでいる XUE JUNーVCG/GETTY IMAGES

もちろんアメリカも、そして他国も、官民挙げてトップレベルの人材の引き抜きに取り組んでいる。しかし、その巧妙さと規模の点で中国は諸外国を圧倒している。中国はこうした人材獲得を通じて経済力を拡大し、軍事技術やサイバー兵器、スパイウエアの開発を進め、地政学的な野心を実現しようとしている。

「技術革新は今や国際的な戦略ゲームの主戦場だ」。昨年5月、党と政府を率いる習は北京の人民大会堂に何百人ものエリート科学者を集め、そう檄(げき)を飛ばしたものだ。

当然のことながら、アメリカ政府は神経をとがらせている。イスラエルは中東における主要な同盟国であり、無人機の開発から人工知能(AI)までのさまざまな分野で、軍事技術とその開発をシェアしている。そのイスラエルに、先端技術の取得に熱心な中国が接近しているのだ。

放置すればアメリカの技術が筒抜けになり、イスラエルを通じて望まざる技術が流出し、秘密が漏れる可能性がある。買収や資本参加を通じて、中国がイスラエル企業の先端技術を手に入れる。そんな展開は最悪だ。

イスラエルにとっては商機

イスラエルはアメリカの戦略的パートナーだが、小さな国だ。中国に言い寄られたら無視はできない。新興企業の育ちやすい国と自慢してきた以上、そういう企業から飛躍のチャンスを奪うようなことはしたくない。

それに中国政府は「一帯一路」構想の一環として、中東でもインフラ建設に多額の投資を行っている。だからイスラエルとしては、近隣のアラブ諸国やイランに対する中国の影響力に配慮しつつ、一方で自国の安全保障の後ろ盾となっているアメリカとの関係も維持しなければならない。

アメリカ政府の立場は明確だ。国務省は本誌に「わが国と友好国イスラエルは、安全保障上の共通の利益に対するリスクに関して率直に意見交換している」と回答してきた。外交用語で「率直に」は、相当に激しい議論を意味する。

イスラエル側も、アメリカ政府の危機感には気付いている。「リスクは承知している」と、エルサレム戦略安全保障研究所のトゥビア・ゲリングは言う。「だがアメリカほどに警戒レベルを上げてはいない」

ジョー・バイデン米大統領とイスラエルのヤイル・ラピド首相は7月、「技術に関する戦略的ハイレベル対話」の枠組みを設置すると発表し、重要な新興技術で共通の利益を守ることを重視していく考えを示した。真っ先に取り組むのは、量子力学を用いて絶対に解読不能な暗号通信技術を開発すること。

ちなみに、この取り組みを主導するのは両国の安全保障チーム。ゲリングに言わせれば「名指しこそしていないが、中国対策であることは明らか」だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米製造業新規受注、9月は前月比0.2%増 関税影響

ワールド

仏独首脳、米国のウクライナ和平案に強い懐疑感 「領

ビジネス

26年相場、AIの市場けん引続くが波乱も=ブラック

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減と報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中