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「お料理の高校生」にも読んでほしい、20代ライターの『死にそうだけど生きてます』

2022年10月31日(月)12時10分
印南敦史(作家、書評家)

団地の子たちは荒れており、仲間はずれにされることも多く、なにか事件が起こると濡れ衣を着せられて責められたりもした。


 友達の家はどこを見ても、うちや団地の子たちの家とは違うところだらけだった。自分の家にいても時間を潰す術がなかった。友達の家でゲームをしたり、漫画を読ませてもらう時間が楽しかった。友達の家を訪問する時、みんなはお菓子やゲームを持ち寄った。でも、私は何も持っていけなかった。みんなをうちに呼ぶこともできなかった。ボロい家に住んでいるのがバレることが怖かった。ずっと家にいる父に、みんなを会わせたくなかった。(22~23ページより)

父親の暴力は終わることがなく、「うちにはお金がない。うちは普通とは違う」という思いも必然的についてまわった。中学生になり、みんなで遊ぼうということになっても、遊ぶためのお金などなかったため遊びに参加できず、やがて生まれた距離感はいじめへと発展していく。

不登校になるもフリースクールに通って自身を立て直し、高校に合格するが、制服を買うお金がなかった。やがて大学に進学しようと決意して受験勉強に力を入れるが、新品の参考書が買えなかったため、アマゾンに1円で出品されていた中古の参考書で勉強した。

こうしたエピソードは、"普通の生活"ができている人にとっては非常に衝撃的であるはずだ。だが、そんな状況は大学に無事合格してからも続いた。

三日間かけて、朝も昼も夜も、ひたすら書きまくった

家賃3万円のシェアハウスに暮らし始めるのだが、サイズが合わないながらも制服があった高校時代と違って着る服がなく、ましてや勉強に必要なパソコンも買えない。やがて体調を崩してものが食べられなくなり、もともと55キロだった体重は40キロ台にまで減った。

卒業後に勤めた会社は、2人の上司がきっかけで会社に行けなくなり、退職。その後の転職活動はうまくいかず、「正社員がダメなら派遣で」という考えも打ち砕かれた。派遣こそ即戦力が求められるからだ。

酒を一滴も飲めないにもかかわらず急性肝炎になり入院を余儀なくされるが、入院費のことが気にかかってメンタルが追い込まれる。

さらに、新型コロナウイルスが猛威を振るい始める。その頃していた派遣の仕事は日給制なので、仕事がなくなれば確実に生活を圧迫する。

が、そんななか八方塞がりの状況にもやがて光明が見え始める。あるとき知り合った編集者からのアドバイスをもとに自身の体験を文章にしたところ、バズったのだった。

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