最新記事

ロシア

プーチン動員令、国内パニックだけじゃない深刻な影響

A Bad Hand for Putin

2022年9月26日(月)12時05分
エイミー・マッキノン、ジャック・デッチ、ロビー・グラマー(いずれもフォーリン・ポリシー誌記者)
プーチン

3日で終わるはずの作戦が出口の見えない消耗戦になり、追い詰められたプーチンはついに禁じ手を使うことに RUSSIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICE-KREMLIN-REUTERS

<予備役は1~2カ月の訓練で前線に送り込まれるだろうが、戦闘能力も士気も低く、戦況は「もっと悲惨」に。予備役がウクライナに派遣されない可能性もあるが......>

2月24日のウクライナ侵攻から約7カ月がたった9月21日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、戦闘継続のために予備役の部分的動員令に署名したことを発表した。

3日でケリがつくはずだった戦争が長引き、最近は一部地域でロシア勢の後退が伝えられるなかでのことだ。

プーチンは、かねてから総動員を求めてきた国防部門の圧力と、そんなことをすれば政情不安に陥るリスクの間で身動きが取れなくなっている。

欧米諸国の政府高官らは、ロシアがこれ以上この戦争に人員を投入しようとすれば、国内で激しい反発が生じるはずだと予想していた。

実際、30万規模とされる部分的動員令が発表されて以来、首都モスクワやサンクトペテルブルクを中心にロシア各地で大規模な抗議デモが起きている。

これまでウクライナに送り込まれた兵士たちは、貧困家庭や地方の出身者が多かった。ロシアには徴兵制があるが、裕福な家庭の子弟は免除されていることが多い。

従って動員対象を軍務経験者に限定すれば、都会のエリート家庭の子弟を動員せずに済み、大きな批判は避けられると、当局は踏んだらしい。

だが、部分的動員令が発表されるや否や、外国行きの飛行機の片道航空券が飛ぶように売れ、隣接するフィンランドやジョージア(グルジア)、モンゴルなどを陸路で目指す車が国境に列を成した。招集該当年齢の男性は出国を禁止されるのではという不安が、パニックに拍車を掛けた。

ロシアはウクライナ侵攻当初、こうした動員はないと明言していた。

それを覆す決定なだけに、プーチンが今後、この戦争は「ウクライナ東部のドンバス地方に限定された特別軍事作戦だ」と言い続けるのは難しくなりそうだ。

部分的動員令を発表した国民向け演説で、プーチンはもう1つの発表をした。

ロシアが実効支配するウクライナ東部のドネツクとルハンスク(ルガンスク)、そして南部のヘルソンとザポリッジャ(ザポリージャ)の4地域で予定されている、ロシアへの編入を問う住民投票の実施を支持すると語ったのだ。

ロシアは2014年に侵攻したクリミア半島でも同じような住民投票を強行して「住民の民主的な選択を尊重する」という体裁をつくって強引にロシアに併合した。

核使用の脅しを正当化

危険なのは、今回もこうして一応の既成事実をつくってしまえば、ウクライナがこれらの地域からロシア勢を追放する攻撃を仕掛けてきたとき、プーチンは「ロシアの領土が直接攻撃を受けた」と主張して、戦争をエスカレートさせやすくなることだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中