最新記事

中国外交

今年はまだゼロ! 習近平が「一帯一路」をまったく口にしなくなった理由

The BRI in Disguise

2022年9月14日(水)17時36分
アンドレア・ブリンザ(ルーマニア・アジア太平洋研究所副代表)

どこかで聞いたような話だと思うかもしれない。そう、一帯一路も当初は、参加表明の証しとして覚書を締結した国の多さと、莫大な投資規模が大きな話題になった。

習は、6月のBRICS首脳会議の翌日に開催した「グローバル発展ハイレベル対話」で、従来の南南協力援助基金を、40億ドル規模の「グローバル発展・南南協力基金」にアップグレードすることを発表した。これも既視感があるかもしれない。一帯一路も資金源の1つとして「シルクロード基金」が設けられた。

中国政府は一帯一路とGDIは別物とするが

中国政府は、GDIは一帯一路に代わるものではないと主張する。王は、GDIと一帯一路は「伝統的な領域における協力を推進するとともに、新たな重点事項を推進するツインエンジンだ」と語った。さらに、GDIは「一帯一路や、アフリカ連合のアジェンダ2063、そしてアフリカ開発のための新パートナーシップ等の構想と相乗効果を生み出す」と自信を示した。

しかし中国政府高官の言動から受ける印象は正反対だ。一帯一路は休眠状態で、GDIばかりがもてはやされ、対外的に推進されている。それでも世界の国々を相手にしたとき、GDIが一帯一路に比肩するインパクトを持つことはないだろう。

なぜか。それは一帯一路にはシルクロードの再建という神秘性と物語性と夢があるからだ。そこにはGDIも欧米の類似プロジェクトも持ち得ない強烈な魅力がある。この魅力があるからこそ、一帯一路は当初、中国のソフトパワーと世界的な存在感を高める役割を果たしたのだ。

どんなにGDIのほうが新しくて、より綿密に計画されていても、一帯一路のように欧米諸国で熱狂的な反応を引き起こすことはないし、中国外交のPR力を高めることもないだろう。実際、中国の外に出れば、GDIが政府高官やメディアの話題になることはほとんどない。

この10年ほどで、中国のイメージが悪化して、中国が提案する構想は、なんであれ疑念を抱かれるようになったことも痛い。多くの国に幅広く受け入れられなければ、中国の壮大な世界的構想も名ばかりの存在にとどまるだろう。

だから中国は、一帯一路という極上のブランドを捨てるべきではない。ただし、アメリカやEUや日本やインドなどの主要国や国際機関に有害な構想だと思われないように、その目的や活動内容を明確に定義する必要がある。

一帯一路は、多くの批判によって傷ついたものの、まだ死んでいないし、容易に消えることもないだろう。これは中国外交のブランド戦略の問題だ。どんなに政府高官がGDIを連呼しても、一帯一路ほどの魅力はないことは、彼らも気付いているはずだ。

©2022 The Diplomat

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中貿易協議で大きな進展とベセント長官、12日に詳

ワールド

プーチン氏、15日にトルコで直接協議提案 ゼレンス

ビジネス

ECBは利下げ停止すべきとシュナーベル氏、インフレ

ビジネス

FRB、関税の影響が明確になるまで利下げにコミット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中