最新記事

アメリカ政治

米メディアは中間選挙へ向け「広告の嵐」 渦巻く批判と新たな効果

2022年9月12日(月)16時15分
メモ帖

今年11月の米中間選挙を控えて大量の政治広告が放映され、せっかくのテレビを見る楽しみを奪われた――。マリア・ジョーンズさんは、そんな思いを持つ米国人の1人だ。写真はジョーンズさんがテレビで見て記録した政治広告のリスト。アリゾナ州ピオリアで8月撮影。ジョーンズさん提供(2022年 ロイター)

今年11月の米中間選挙を控えて大量の政治広告が放映され、せっかくのテレビを見る楽しみを奪われた――。マリア・ジョーンズさん(53)は、そんな思いを持つ米国人の1人だ。

自身が数えたところ、ここ数カ月間で流れた政治広告は、多い日で1日当たり25本だったという。ジョーンズさんが暮らすのは、アリゾナ州フェニックス郊外にあり州最大の人口を抱えるマリコパ郡。

同州は州レベルや国政レベルの選挙でしばしば激戦が展開される。今度の上院議員と州知事の選挙も伯仲した争いで、連邦議会の勢力図だけでなく米国民主主義の将来を左右してしまう可能性もある。彼女は民主党員で、かつては空軍に勤務していた。

ただ、ジョーンズさんは、政治広告が次々押し寄せてくる状況を「いら立たしい」と嘆き、多大な広告費は「必要としている別の組織に回すことができる」と批判する。

政治広告分析を手がけるアドインパクトによると、今回の選挙戦で11月8日の投票日までに投入される政治広告費が100億ドル近くに達し、米国の1回の選挙として過去最高額になる見通し。これは2018年の中間選挙の2倍以上で、20年の大統領選に投じられた従来の最高記録の90億ドルを塗り替えることになる。

テレビの政治広告の動きを調べている非営利団体、ウェスレヤン・メディア・プロジェクトが点検した結果、昨年1月から今年8月までの間に、連邦議会と州知事の選挙向けに流れた広告はテレビに限っても200万本余り、金額ベースでは10億ドル近くだった。

アドインパクトの想定では、アリゾナ州で今年中に使われる政治広告費は約6億ドル。これを上回りそうなのはペンシルベニア、カリフォルニア、イリノイの3州だけだろうという。

こうした政治広告の嵐に関して、ウェスレヤン・メディア・プロジェクトの共同ディレクター、トラビス・リダウト氏は「今年の(選挙の)重要度は極めて高い」と話す。

それは、上院で与野党議席が50対50ときっ抗しているからだけではない。2020年の大統領選は「盗まれた」と虚偽の訴えを続けているトランプ前大統領の支持者らが、24年の次回大統領選の管理や票数確認に従事するポストに大挙して立候補しようとしているという理由もあるのだ。

アリゾナ州を見ると、選挙実務を担う州知事と州務長官、州司法長官の選挙に出馬している共和党候補はそろって、20年の大統領選には不正があったと主張している。

同州選出の上院議員の座を民主党のマーク・ケリー氏から奪回しようとしている共和党候補のブレーク・マスターズ氏は、トランプ氏の支持を得ている。

ジョーンズさんに聞くと、20年も政治広告は大量に放映されたが、当時はほとんどがトランプ氏支持か反対かに大別できる比較的単純な構成だった。しかし、今年の広告は、移民から医療費、インフレ、人工妊娠中絶、社会保障、税務当局の人員拡充まで実に幅広い分野をカバーしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中