最新記事

アメリカ政治

米メディアは中間選挙へ向け「広告の嵐」 渦巻く批判と新たな効果

2022年9月12日(月)16時15分

一方で、ジョーンズさんによると、政治広告は総じて相手方を非難する「ネガティブキャンペーン」が多い。共和党側はインフレを引き合いに民主党の対立候補を攻撃し、バイデン大統領の仕事のまずさをやり玉に挙げる。

逆に民主党側は、米連邦最高裁が中絶の権利を合憲とした過去の判決を覆す見解を示したことを受けて、共和党候補が連邦レベルの中絶禁止を提唱するのは問題だと追及するという構図だ。

もっとも、アドインパクトの分析では民主党は共和党よりも、アリゾナ州など重点選挙区で候補者本人の長所を売り込む「ポジティブキャンペーン」も展開している。こうした候補者の大半は現職なので党内の予備選を勝ち抜く必要がなく、何カ月も前から自身のイメージ向上につながる広告を放映してきた。

複数の世論調査からは、このポジティブキャンペーンが効果を発揮している様子がうかがえる。アリゾナ、ジョージア、ネバダなど各州の上院議員選では、民主党候補の支持率が共和党候補より高い。

アドインパクトによると、アリゾナ州ではケリー氏のポジティブキャンペーンにこれまで費やされた金額は1200万ドルで、ネガティブキャンペーン向けの600万ドルの2倍に上る。

政治コンサルティング企業、インパクト・ポリティクスのブライアン・フランクリン社長は「ポジティブキャンペーンをより早期に開始したことで、民主党候補は人々に『この人なら問題を解決してくれる』と納得させ、そう思わせる根拠を築き上げる時間的余裕が相対的に大きくなっている」と指摘した。

証明されている効果

また、民主党のベテラン選挙参謀、カレン・フィニー氏は、一般民衆は政治広告に不満をぶつけるが、実際に効果があることが長年にわたって証明されてきたと強調する。

フィニー氏は「役に立たないなら、使われないはずだという格言もある。政治広告は有権者の主な情報源となりがちで、特に繰り返し流せば情報として記憶にとどまる。さらに現在はありとあらゆる偽情報が駆使されているため、候補者が非難攻撃に耐え抜いて届けたい主要なメッセージを確立する上で、ポジティブキャンペーンが大事になっている」と説明した。

最近の選挙は、資金調達や支出について情報開示が必要で、献金額の制限もある従来の政治行動委員会(PAC)の影が薄れ、候補者と直接関係を持たない「独立系」との建前でそうした規制を受けないPACが存在感を増しているのも特徴の1つ。

実際、今年のアリゾナ州の上院議員選では、政治活動費支出額トップ10の団体に、共和党と民主党の正式なPACは2つしか入っていない。

アリゾナ州では、この独立系PACの1つで共和党のマスターズ候補当選に活動目的を絞った「セービング・アリゾナ」の場合、マスターズ氏のベンチャーキャピタル業界時代の上司だった富豪のピーター・ティール氏がほぼ1人で資金を提供している。

超党派の非営利団体で米国の政治資金動向を追っているオープンシークレッツの分析に基づくと、ティール氏は昨年4月以降、セービング・アリゾナに1500万ドル余りを献金。セービング・アリゾナはこれまでメディアに1000万ドル強を投じ、共和党予備選におけるマスターズ氏の対立候補や、民主党候補のケリー氏へのネガティブキャンペーンを展開してきたという。

こうした中でジョーンズさんは、金持ちの献金者や政治団体は広告に使う金額を減らして、市の行政サービス改善やホームレスの住居確保といったもっと重要な問題に回すべきだと考えている。「政治広告など本当にどうでも良い。大量に流れても気分が悪くなるだけだ」と切り捨てた。

(Tim Reid記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ

ビジネス

完全失業率3月は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2

ワールド

韓国製造業PMI、4月は約2年半ぶりの低水準 米関

ワールド

サウジ第1四半期GDPは前年比2.7%増、非石油部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中